エラベノベル堂

拾いものメイドの恩返し

全年齢

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5章 / 全10

翌朝、試作七号は台所の隅で小さく固まっていた。肩まで伸びた髪がまだ少し乱れている。昨夜、鼻歌のあとで急に電源が落ちたらしく、今は申し訳なさそうに目を伏せている。 「すみません。歌っている途中で、なぜか洗濯ばさみが増えました」 「増やしたのか、落としたのかどっちだ」 「たぶん、両方です」 俺は思わず吹き出した。朝の冷たい空気に、そんなやり取りが妙に似合う。テーブルの上には、昨夜片づけたはずの古い缶や紙片が、きちんと並び直されている。だがその端に、いつの間にか小さな花束がひとつ増えていた。割り箸と包装紙で作った、妙に愛嬌のあるやつだ。 「それもお前が作ったのか」 「はい。部屋が静かすぎると、少しだけさみしくなりまして」 そんな言い方をされると、返す言葉がない。俺は湯を沸かしながら、棚の上に積んであった壊れた時計を見た。昨日まではただのガラクタだったのに、今は台所の片隅で役目を失ったように見えて、なんとなく気になってしまう。 「なあ、試作七号」 「はい、ご主人様」 「お前、完全じゃなくても平気なのか」 彼女は少し考えてから、胸元の小さな端子にそっと触れた。 「平気、ではありません。ですが、欠けたままでも動けます。動けるなら、誰かの役には立てます。昨日までは、それで十分だと思っていました」 「今は違うのか」 「今は、少しだけ違います」 彼女は窓辺の瓶に目をやった。朝日に透けた水の中で、昨日の即席の花が揺れている。 「役に立つだけではなく、見ていてうれしいものも、あるのですね」 その言葉に、俺は黙って頷いた。拾い物ばかりの部屋は、ずっと散らかっている。けれど散らかり方が変わった。捨てられたはずのものが並び、壊れたはずのものが笑い、未完成の誰かが、妙にまっすぐこちらを見ている。 そのとき、玄関のほうで軽い音がした。扉の隙間から差し込んだ朝風が、床の上の空き缶を転がしていく。試作七号は素早くそれを拾い上げ、少しだけ得意そうに俺へ差し出した。 「ご主人様。新しい拾い物です」 「増やすなよ」 「いいえ。今度は、増える前に居場所を作ります」 俺はもう何も言えなくなって、その缶を受け取った。たぶん、今日も部屋は騒がしい。だがその騒がしさは、ただの雑音じゃない。誰かがそこにいて、何かを大事にしている音だ。 湯気の立つ茶碗を二つ並べると、試作七号はうれしそうに目を細めた。完成品でも、完全無欠でもない。それでも彼女はここにいて、俺もここにいる。そうして朝は始まり、拾ったものたちの新しい名前が、またひとつ増えていく。

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