エラベノベル堂

拾いものメイドの恩返し

全年齢

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5章 / 全10

「どうしましょう、じゃないだろ……」 亮太は袋と一緒に、小型ロボを抱えたミオを見比べた。夕方の光がワンルームの窓を斜めに差し込み、床に残るガラクタの影を長く伸ばしている。 「とりあえず、こいつを置く場所を考えるしかないな」 「置く場所、ですか」 ミオは真剣な顔で部屋を見回した。次の瞬間、小型ロボの瞳が、机の隅に積まれたねじや古い端子に反応したのがわかった。ぴ、と小さな電子音がして、眠っていたはずの機体が勝手に身を起こす。 「起動……簡易メイド機能、検索」 「え、動くのかよ」 「接触反応、確認。周辺の散乱物を整理対象に設定」 小型ロボはちょこちょこと床を進み、落ちていた充電ケーブルを束ね、片方だけの手袋を小箱へ収め、開きっぱなしの本を端にそろえた。しかもただ片づけるだけではない。壊れた椅子を壁際へ寄せ、空いた床を通りやすい幅に整え、掃除機まで引き寄せて、まるで家事の設計図を見ているみたいに動く。 「すご……」 亮太がぽつりと漏らすと、ミオの瞳がわずかに揺れた。 「私の判断ではありませんが、連携は可能なようです」 「いや、今のはお前も見たろ。あいつ、勝手に働いてるぞ」 「はい。ですが、役割を理解しているようです」 ミオは小型ロボを見つめ、少しだけ誇らしげに胸を張った。 「私だけでは足りなかった部分を、補ってくれているのかもしれません」 その言葉どおりだった。小型ロボが動くたび、部屋はみるみる整っていく。だが、整い方が妙だった。机は作業しやすい高さに寄せられ、椅子はすぐ座れる位置に固定され、棚の向きまでそろえられている。亮太の拾い物は、積み上げられるのではなく、種類ごとに並び、まるで展示品みたいに見やすく置かれていた。 「なんか、部屋が……店みたいになってないか?」 「展示です」 小型ロボが即答した。 「再利用価値の高い品は、見せるべき」 「見せるべきって、俺の趣味の収集物までか?」 「はい。重要資源です」 亮太は頭を抱えた。壊れたラジオは机の上、欠けたマグカップは棚の中央、ゆがんだ工具は壁に沿って整列。確かに片づいてはいる。けれど、落ち着くはずの部屋が、急に見学施設みたいに張りつめた。 「でも……」 ミオが小さく呟く。 「とても、きれいです」 その声は、さっき工房で見せた前向きさよりも、ずっと明るかった。役に立てた、自分でも何かを整えられた。そんな実感が、彼女の表情をほんの少し柔らかくしている。 亮太は、言葉を飲み込んだまま室内を見回した。ガラクタの山は半分ほど消え、代わりに用途別に並んだ品々が夕陽を受けて静かに光る。乱雑だった部屋に秩序が戻っただけなのに、どこか知らない場所みたいだ。 「ミオ」 「はい」 「お前、だいぶ戻ってきたんじゃないか」 ミオは目を瞬いた。 「……そうでしょうか」 「少なくとも、さっきより全然いい顔してる」 その一言に、彼女はほんの少しだけ笑った。だが次の瞬間、その笑みがふっと曇る。小型ロボが床の隅で作業を止め、胸のランプを小さく点滅させたのだ。 「メモリ照合。残存機能、二十三パーセント」 「に、二十三?」 亮太が思わず聞き返す。 「補助動作、可能。記憶、欠損多し。自己認識、未完成」 「未完成って……」 ミオは小型ロボに近づき、しゃがみこむように見下ろした。自分と同じ匂いを感じたのかもしれない。 「私は、これよりもっと少ないのですね」 その声は平静を装っていたが、指先がわずかに震えている。 「欠けている部分が、思ったより多い……」 亮太は言いかけて、やめた。慰める言葉を探しても、今の彼女には軽すぎる気がしたからだ。 ミオは小型ロボの頭にそっと触れ、静かに目を伏せた。 「でも、私が役に立てたのは、ここにあるもののおかげです」 整えられた部屋を見渡しながら、彼女は微笑もうとした。 「だから、まだ……」 そこで言葉が切れる。自分の中に残っているものの少なさを、改めて知ったからだ。 亮太は、床にひとつだけ残された古い缶を拾い上げ、手のひらで転がした。 「まだ、だろ」 ミオが顔を上げる。 「足りないなら、足りない分を見つけりゃいい。今日はそれで十分だ」 彼女は小さく頷いた。けれど、その目はもう部屋ではなく、どこか遠い空白を見ているようだった。 小型ロボは再び静かになり、整えられた展示みたいな部屋の真ん中で、次の指示を待っている。ミオはその横に立ったまま、まだ知らない自分の欠けた部分を思うように、ゆっくりと息を吐いた。

5章 / 全10

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