赤い警告が消えないまま、部屋の窓ガラスがかすかに震えた。外で何かが通りすぎるたび、床に並んだガラクタの影が細く伸びては縮む。亮太は息を殺し、ミオの腕をつかんだ。 「来るぞ」 「はい。回収ドローン、接近中です」 その声は落ち着いていたが、指先にはわずかな硬さが残っていた。次の瞬間、天井の警告が一斉に強まり、部屋の外から低い羽音が重なって押し寄せてくる。 「ここ、もうダメだ。裏口から回ろう」 「裏口、ありますか」 「ある。狭いけど、通路に抜けられる」 亮太は小型ロボを抱え、ミオと並んで玄関とは逆の扉を開いた。細い保守用通路は、むき出しの配管と点滅する小さな灯りだけが続いている。湿った空気が肌にまとわりつき、背後では金属音が壁を叩いた。 「こっちだ!」 「了解」 二人が駆け出すと、通路の曲がり角の向こうで白い機影がかすかに光った。回収ドローンだ。音もなく滑るように迫ってくる。 「ミオ、失われた部品の手がかりって、何かわかるのか」 「完全ではありませんが……旧工場の管理区画に、識別断片が残っている可能性があります」 「場所は」 「この先の、保守記録が集まる区画です」 亮太はうなずき、足を止めずに前を見た。曲がり角を抜けるたび、どこからか赤い光が差し込む。追手は増えているのに、通路は細くなるばかりだった。 そのとき、ミオがふと立ち止まり、足元の配線箱を見下ろした。 「……これ」 箱の脇に、小さく刻まれた番号がある。工房で見た端子束と似た古い規格だった。 「知ってるのか?」 「ええ。私の中に残っている接続痕と、近いです」 亮太はしゃがみこみ、懐中電灯代わりの小さなライトで番号を確かめた。ドローンの羽音が近づく。焦りそうになるのに、彼はなぜか目の前の傷んだ配線に、妙な親しみを覚えた。 「まただな」 「また、ですか」 「俺、こういうの見つけると、つい拾っちゃうんだよ。でも……ただゴミを集めてるだけじゃない気がする」 ミオが振り向く。赤い警告灯に照らされた横顔は、驚くほど静かだった。 「違うのですか」 亮太は配線箱をそっと撫で、笑うように息を吐いた。 「困ってる場所を見つける感じに近い。ここ、ほっといたらまずいっていうか、助けを待ってるっていうか」 その言葉に、ミオの目が少しだけ見開かれた。 「亮太様は……拾っていたのではなく」 「うん。たぶん、見つけてた」 遠くで金属が弾かれる音がした。二人は同時に顔を上げる。通路の先に、もう一つ曲がり角が見えていた。 「行くぞ」 「はい」 亮太は配線箱の番号を一瞬だけ覚え込むように見つめ、それからミオの手を引いて駆け出した。背後の羽音はすぐそこまで迫っている。けれど、彼の胸の中には、拾い物の山とは別の感覚が確かに芽生えていた。捨てられたものの中に、まだ声の残る場所がある。そんな気づきが、暗い通路の先を少しだけ明るくした。
拾いものメイドの恩返し
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