夕方の部屋に、試作七号の鼻歌がやわらかく流れていた。俺は湯呑みを片づけながら、机の上に積まれた拾い物の山を見やる。古い懐中電灯、片方だけの手袋、錆びたクリップ、割れた腕時計。どれもただの余り物だと思っていたのに、彼女の手にかかると、なぜか全部が居場所を持ちはじめる。 試作七号は床にしゃがみ込み、昨日まで無関係だったはずの物を真剣な顔で並べ替えていた。ラジオのつまみの隣に缶切りを置き、紙花の束の間に小さな銀色の端子を差し込む。すると、部屋の奥で止まっていたはずの目覚まし時計が、ひとりでに短く鳴った。 「お前、また何かしたのか」 「わかりません。ですが、今度はうまくつながった気がします」 彼女は胸元に手を当てて、少しだけ誇らしげに笑った。だが次の瞬間、その笑顔がふっと曇る。机の引き出しから見つけた小さな部品を掲げ、首をかしげた。 「これがあれば、私はもう少し正確に動けるはずです。けれど、どうしてでしょう。入れたいのに、少し惜しい気持ちになります」 俺はその部品を受け取り、指先で転がした。確かに、それは彼女のものかもしれない。けれど、今の彼女を見ていると、足りないままの軽やかさまで含めて一つの形に思えた。 そのとき、窓際の瓶がかすかに揺れた。中の紙花に朝の光が残っていて、夕方なのにまだ明るい。試作七号はそれを見上げ、静かに目を細める。 「ご主人様。もしかすると私は、ひとつになるためではなく、いろいろな物を目覚めさせるために作られたのかもしれません」 「なら、今のままで十分じゃないか」 「いいえ。十分ではありません。でも、悪くもありません」 彼女はそう言って、俺の袖をそっとつまんだ。まるで答えを確かめるみたいな仕草だった。そこで俺は、ふと気づく。俺自身もまた、役に立つかどうかだけで物を見てきたのだ。けれど今日は違う。壊れた時計も、片方だけの手袋も、完成しきらない彼女も、全部がこの部屋の空気を少しずつ変えている。 「なあ、試作七号」 「はい」 「その部品、入れなくてもいい。代わりに、これからも拾い物を頼む」 彼女は一瞬きょとんとして、それから、今まででいちばんうれしそうに頷いた。ところが次の瞬間、胸元の端子が勝手に光り、彼女は小さくくしゃみをした。すると部屋の隅から、しまっておいたはずの空き缶がころころと転がり出してくる。 「ご主人様」 「なんだ」 「どうやら、私がいると物が増えます」 俺は苦笑し、転がってきた空き缶を拾い上げた。増えるのなら、それも悪くない。だが缶の底を見た瞬間、俺は思わず目を見開く。そこには、昨日まで見たことのない細かな刻印が残っていた。試作七号の顔に、そっくりな製造番号。 彼女がゆっくりとこちらを見る。笑っていたはずの口元が、ほんの少しだけ固まっていた。
拾いものメイドの恩返し
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