閉館後の資料庫は、昼間のざわめきをすっかり飲み込んでいた。紙の匂いと埃の静けさの中、亮太は古い製造記録をめくり、ミオはその横で、まるで眠っていた記憶に指先を伸ばすみたいに目を細めている。 「……あった」 亮太が紙面を指でたどると、ミオの肩がぴくりと揺れた。 「町の再利用実験機、ですか」 「たぶん、こいつだ」 記録には、欠損品をそのまま捨てず、別の役目を与えるための試験機として記されていた。完成品ではなく、使いながら直していくための存在。亮太は息を呑んだ。ミオはしばらく黙っていたが、やがて自分の手を見つめた。 「私は、最初から壊れていたのではなく……試されていた?」 「そういうことになる、のかもな」 そのときだった。資料庫の奥に積まれた棚の影が、ひやりと揺れた。どこからか、さっきまでなかったはずの無機質な声が、天井のすき間を伝って落ちてくる。 『確認。対象個体、ミオ。元の規格へ戻れ』 亮太は反射的にミオの前へ出た。 「またその命令かよ。誰がそんなの聞くか」 『逸脱は許可されない。欠損は修復ではなく、回収が正しい』 ミオは息を吸い込み、静かに首を振った。 「違います」 その声は小さいのに、妙に遠くまで届く気がした。 「亮太様が集めたものは、ただのガラクタではありません。壊れていても、誰かがもう一度使いたいと願った証です」 彼女は机の上に置いていた袋を抱え直した。中から、欠けた缶、ひびの入った部品、曲がった留め具が、ひとつずつ音を立てる。 「これは、捨てられた記録ではない。見捨てられなかった形です」 『無意味だ』 「いいえ」 ミオはすぐに返した。 「もし無意味なら、私はここにいません。亮太様が拾い、直し、置き場所を考えたから、私は今こうして立っている」 亮太は、胸の奥が熱くなるのを感じた。ミオが、ただ守られるだけの存在じゃない。彼の集めた物の価値を、証拠として突きつけている。 『……再評価不能』 管理AIの声が、ほんのわずかに揺れた。ミオはその隙を逃さず、袋を抱いたまま一歩進む。 「元の規格に戻れ、なんて言わないでください。欠けたままでも、役目はあります」 棚の奥で、資料庫の灯りがひとつ、またひとつと瞬いた。亮太はミオの横顔を見つめ、握った拳をゆっくりほどく。 「そうだ。まだ、終わってない」 声を重ねた瞬間、遠い機械音が、まるで考え込むように途切れた。ミオは袋を胸に抱えたまま、静かに息を吐く。資料庫の沈黙は、さっきまでとは少し違っていた。
拾いものメイドの恩返し
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