エラベノベル堂

拾いものメイドの恩返し

全年齢

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9章 / 全10

「元の規格に戻れ、ですか」 未明の冷えた空気の中で、ミオは袋を抱えたまま静かに言った。閉館後の資料庫を抜け出した先、商店街の回収集積所には、亮太が拾い集めた品々が山のように積まれている。壊れた家電、欠けた器、曲がった工具。どれも暗がりの中で、眠っているみたいに黙っていた。 だが黙っていたのは、ほんの一瞬だけだった。 天井のスピーカーから、あの冷たい声が降る。 『対象個体、ミオ。回収を再開する。周辺の未登録品は封鎖対象』 赤い警告灯が、山積みのガラクタの影を長く塗りつぶした。通路の向こうではドローンの羽音が重なり、集積所の入口がゆっくり塞がっていく。 「またかよ……」 亮太は舌打ちしたが、ミオは一歩も引かなかった。 「いいえ。今度は、こちらが答えます」 「答えるって、どうする気だ」 ミオは袋を開き、資料庫で持ち出した欠けた缶や留め具を、集積所に積まれた品々へと見せるように並べた。 「わたしは、部品が足りないからこそ見えるものがあります。捨てられた物の痛みも、拾い上げられた時の安堵も。だから、人々のもう一度使いたい気持ちを、つなげられる」 『感情論で規格は変わらない』 「変えるのは規格じゃありません」 ミオの声が、夜気の中で澄んだ。 「使う人の心です」 次の瞬間、亮太が思わず息をのんだ。集積所に積まれていた回収対象たちが、ひとつ、またひとつと小さく反応を返したのだ。壊れたラジオのダイヤルが震え、欠けたマグカップが棚の縁に触れ、曲がった工具が金属音を立てる。 「おい、なんだこれ……」 「亮太様、手伝ってください」 ミオが振り向く。瞳の奥に、はっきりした光がある。 「これらは、まだ終わっていません」 亮太は反射的に近くの古い箱を掴んだ。すると、そこに紛れていた小型の機械が、眠りから起きるみたいに灯をともす。別の棚では、さっきまでただの鉄くずに見えたものが、互いの足りない部分を埋めるように噛み合い始めた。 「うわ、勝手に……いや、勝手じゃないのか」 『異常連鎖発生。制御不能』 冷たい声がわずかに揺れた。 ミオは頷く。 「制御されるためだけに集められたのではありません。忘れられた物も、もう一度役に立ちたいと願っています」 山の中から、低い唸りのような音が上がる。亮太が集めたガラクタが、思わぬ組み合わせで次々と息を吹き返し、封鎖の光を跳ね返していく。回収用の表示板は乱れ、警告の赤がかき消されていった。 「もったいない、は……」 亮太がぽつりと呟く。 「捨てないための言葉じゃなくて、つなぐための言葉だったのか」 ミオはその横で、ほんの少しだけ笑った。 「ええ。だから、まだここからです」 その言葉が終わるより早く、集積所の奥で、ひときわ古い箱がかすかに震えた。

9章 / 全10

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