エラベノベル堂

居酒屋帰りの三人組

全年齢

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3章 / 全10

熊さんが掲示板を見上げたまま、低く唸った。あの社長が、店の外ではあんなに人を動かしていたとは。先生は腕を組み、少しだけ目尻をゆるめる。人は見た目だけではわからない、とはよく言うけれど、あれはもう別人だね。そうして二人は、半ば疑い、半ば興味に引かれるまま、地域センターの次の集まりへ足を運んだ。 そこには、社長がいた。紙束を小脇に、手早く段取りをつけ、年配の参加者たちに冗談を飛ばしながら、舞台の位置まで調整している。居酒屋で見せる横柄さなど一片もない。むしろ、誰かの忘れ物を拾い、手すきの者に仕事を振り、最後に自分がいちばん動いていた。熊さんは拍子抜けして、先生は思わず笑った。 おい、社長。酒場のほうが副業だったのか。熊さんが言うと、社長は一瞬きょとんとしてから、やれやれと肩をすくめた。副業とは失礼だな。こっちが本業みたいなものだ。けれどそう言いながらも、その顔は妙に楽しげだった。地域の催しは、思った以上に手が足りない。誰かが動かなければ、楽しみも準備の段階でしぼんでしまう。だから引き受けていたのだと、社長はあっさり打ち明けた。 それからの二人は、もう見物人ではいられなかった。先生は進行表を整え、熊さんは荷物運びと設営で重宝された。最初は押しかけ半分だったはずが、気づけば手順を覚え、顔見知りも増え、誰かに頼られるたびに妙な照れくささが胸をくすぐった。居酒屋へ戻れば、今度はその日の失敗談や、次の催しの妙案で席が埋まる。 ところが、社長はそこで満足しなかった。ある晩、店主に頼んでいたという張り紙を壁に貼らせると、にやりと笑った。今度の店の周年で、地域の寄り合いをまとめて発表会をやる。どうせなら、この店ごと巻き込んじまおう。熊さんと先生が言葉を失っているうちに、常連たちまで拍手している。いつもの居酒屋が、急に舞台のように見えた。 社長は空席を埋めるだけでは飽き足らず、空いていた夜の意味まで変えてしまった。名前も知らなかった三人は、いつしか互いの予定を取り合うほどの仲になり、明日を面白くする相談をするようになっていた。熊さんは苦笑し、先生はグラスを掲げる。まだまだ、これからだな。だがその夜、店の奥から聞こえたのは、三人分だけではなかった。見知らぬ誰かの笑い声が混じっていた。

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