エラベノベル堂

居酒屋帰りの三人組

全年齢

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4章 / 全10

熊さんと先生は、社長の足取りを追ううちに、いつの間にか商店街の顔見知りになっていた。最初はただ、空いた席の理由が知りたかっただけだ。だが店主に聞けば、社長は昼の顔が忙しいらしいと笑い、常連はあの人なら何かやらかしているはずだと肩をすくめる。肝心の本人は見つからない。けれど、どこへ行っても誰かが社長の名を口にした。配る紙を束ねていた。会合の進行を仕切っていた。祭りの抽選を考えていた。まるで町中が、ひとりの老人を探すのではなく、ひとりの老人に働かされているようだった。 ある午後、二人は掲示板の前で立ち尽くした。そこには地域イベントの案内が何枚も重なり、その真ん中に、社長の顔写真があった。腕をまくり、笑い皺を深くして、若い職員と並んでいる。熊さんは目を細め、先生はふっと息を漏らした。酒場で威張る男が、昼の町ではこんなにも人を動かしていたのか。しかも写真の横には、シニア向け交流会の世話役、実行委員長の文字。社長という呼び名は、どうやら居酒屋の席だけのものではなかった。 その夜、いつもの席はやはり空いたままだった。熊さんは空の椅子を肘で小突き、つまらなそうに言った。引退じゃなかったな。働きすぎで倒れたら困るぞ。先生は湯気の立つ酒を見つめながら、あの人は暇を持て余すと死んでしまうのかもしれない、と妙な言い方をした。冗談めかしてはいたが、二人とも少しだけ心配していた。 数日後、店に珍しく電話が入った。店主が受話器の向こうでうなずき、最後に吹き出す。やがて顔を上げると、社長から伝言だよ、とだけ言った。明日の夕方、地域センターに来い。いいものを見せる。熊さんは眉をひそめ、先生は眼鏡を押し上げた。いいもの、とは何だ。肴でも持ってこいというのか。それとも、ようやく姿を現す気になったのか。 翌日、二人が案内された先には、社長がいた。だが一人ではない。椅子を並べる人、飾りを結ぶ人、書類を確認する人たちの中心で、彼は相変わらず忙しそうに笑っていた。熊さんが口を開くより早く、社長は手を振った。遅いぞ。今夜は店の常連も呼ぶ。お前たちも手伝え。どうやら空席の理由は、ただの不在ではなかったらしい。居酒屋の夜は、もっと大きな輪の入口に変わり始めていた。

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