熊さんと先生は、社長の顔を探して商店街を歩くうち、気づけば知り合いが増えていた。最初は空いた席が気になるだけだったはずなのに、今では通りすがりの八百屋まで、あの人ならセンターにいるよと教えてくれる。店主も、注文の手を止めて苦笑した。昼の社長は、なかなか捕まらないね。二人はその言葉に、ますます首をかしげた。 ある日、地域センターの裏口で声をかけると、社長は紙の束を抱えたまま振り向いた。おう、ちょうどいい。手伝え。そう言って渡されたのは、祭りの案内と配布先の一覧だった。熊さんは眉を上げ、先生は眼鏡の奥で目を細める。てっきり居酒屋で威張る顔しか知らなかったが、この男は町じゅうの段取りを抱え込んでいた。しかも、ただの気まぐれではない。シニア向けの交流会や、子どもたちとの合同企画まで、社長は笑いながら先頭に立っていた。 事情を聞けば、夜の来店は昔からの気分転換だったという。仲間をまとめ、書類を片づけ、次の催しの相談まで終えると、最後に一杯だけ飲みに来る。それが習慣になっていたらしい。だが最近は地域の秋祭りが重なり、夜も昼も走り回る羽目になっていた。だから顔を出せなかったのだと、本人はあっさり言った。熊さんは呆れて天井を仰ぎ、先生はふっと笑う。つまり社長は、逃げたのではなく、働きすぎて店までたどり着けなかったのだ。 二人はそのまま、準備の輪に巻き込まれた。熊さんは重い荷を運び、先生は名簿と時間割を整える。社長は相変わらず口うるさく指示を飛ばすが、不思議と誰も嫌がらない。むしろ、彼がいないと流れが止まることを、周囲の誰もが知っていた。居酒屋に戻れば、空いていた椅子はもう寂しくない。今度は翌週の出し物や、誰を呼ぶかで話が弾んだ。 そして祭り当日、三人は店の暖簾の前で顔を見合わせた。社長は少し照れたように笑い、熊さんは肩をすくめ、先生はその横顔を見て小さくうなずいた。名前も知らずに始まった関係は、いつの間にか町を動かす力になっている。空席だった夜が、こんな未来を連れてくるとは誰も思わなかった。社長はグラスを持ち上げて言った。まだまだこれからだ。だがその声に続いたのは、店内の笑い声だけではなかった。表の通りから、祭り囃子が一足先に聞こえてきた。
居酒屋帰りの三人組
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