エラベノベル堂

居酒屋帰りの三人組

全年齢

小説ID: cmnhh6s51000001mo5ygzvfh0

6章 / 全10

熊さんと先生は、社長の行方を追ううちに、いつしか町の顔役たちにまで顔を覚えられていた。あの人なら今日はセンターだよ、八百屋も理髪店も、同じように肩をすくめて教えてくれる。けれど肝心の本人は、なかなか姿を見せない。空いた席を肴にして笑っていた二人も、さすがに不安を隠せなくなっていた。 ようやくたどり着いた地域センターの講堂で、二人は言葉を失った。そこにいた社長は、居酒屋で見せる威勢のよさとは違い、十人以上の年配者を相手に、拍手を誘い、段取りを整え、次々と指示を飛ばしていた。舞台袖では飾りの位置を直し、受付では名前の書き漏れを確かめ、空いた時間には冗談まで飛ばす。まるで最初からそこにいたかのような馴染みぶりだった。 熊さんが声をかけるより先に、社長は振り向いてにやりと笑った。見つかったか。店でばかり威張っていると思ったら大間違いだぞ。そう言ってから、ようやく本題を明かす。毎晩の来店は、シニア向けサークルの活動を終えたあとの気晴らしだった。仲間をまとめ、行事の準備をし、地域のイベントまで抱え込んでいたため、近ごろは店に寄る時間すら削られていたのだという。 拍子抜けしたのは熊さんだけではない。先生も、眼鏡の奥で苦笑を漏らした。社長は居酒屋の親分ではなく、町のあちこちで頼られる実働部隊だったのだ。しかも、その忙しさを愚痴ひとつで見せない。むしろ人を動かすことを楽しんでいる顔だった。 帰り道、熊さんは呆れたように肩を落とし、先生は少し誇らしげにうなずいた。あの人、酒より先に人を集めるたちなんだな。だが、その夜の居酒屋で三人が揃うと、空気はいつもより軽かった。社長は遅れた分を取り戻すように語り、熊さんは大げさに嘆き、先生は静かに茶々を入れる。気づけば、次の地域催しをどう面白くするかで話がまとまっていた。社長は杯を置き、当然のように言った。今度は店も巻き込むぞ。熊さんと先生は顔を見合わせ、それから同時に笑った。空席だった椅子は、もう戻らない。代わりに、三人の夜は少しずつ町へ広がっていった。

6章 / 全10

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