エラベノベル堂

居酒屋帰りの三人組

全年齢

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7章 / 全10

「……やれやれ。見つかっちまったか」 扉の影に立つ二人を見た社長は、若い者たちへ向けていた声をふっと緩めた。さっきまでのきびきびした調子が、居酒屋で盃をあおる時の、あの少しだけ面倒くさそうな響きに戻る。 「おい、社長。あんた、何者だ」 親方が半歩だけ踏み出すと、社長は肩をすくめた。照れた顔だ。いつもの堂々たる態度が、急に小さく見える。 「何者ってほどのもんじゃないさ。元は事務長だよ。町工場のな」 先生が目を見開く。 「事務長?」 「そう。書類を回して、会議を回して、現場と役所の間を走り回る役だ。今はもう看板もないが、昔はそれで食ってた」 社長は頭をかき、ひとつ息を吐いた。 「で、あいつらが勝手に社長なんて呼び始めた。立場もないのに、面白いからそのまま受けてただけだ」 親方は呆れたように笑う。 「受けてただけ、って顔かよ。ずいぶん堂に入ってたじゃねえか」 「年を取ると、呼ばれ方に合わせるのも楽でな」 先生はしばらく黙っていたが、やがて目を細めた。 「つまり、居酒屋の社長は仮の名で、ここでは本来の仕事をしていたわけか」 「仮っていうか、半分は遊びだ」 社長は苦笑した。 「毎晩あの店で、お前さんたちが気楽そうにしてるのを見てると、こっちまで名前を置いていけた。先生だの親方だの、そっちも本名を知らんまま、よくまあ何年も飲めるもんだと思ってたがな」 親方が鼻で笑う。 「そりゃこっちの台詞だ。だが、知らんままのほうが楽だったんだよ」 「そういうことだ」 社長の答えは、思ったよりあっさりしていた。だが、そのあっさりさが、かえって長い付き合いの重みを浮かび上がらせる。 若いボランティアの一人が、戸口の気配に気づいてきょとんとした顔をする。社長はすぐにいつもの表情へ戻り、手のひらで軽く合図した。 「悪いが、少しだけ外す。続きは戻ってからだ」 振り返った二人に向けて、社長はもう一度、照れ隠しのように笑った。 「しかし参ったな。まさか今夜、こんなところで正体を暴かれるとは」 先生も親方も、返す言葉を探しきれない。ただ、公民館の廊下に流れる空気だけが、少しだけ柔らかくほどけていった。

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