熊さんと先生は、空いた席の理由を確かめるため、いつもの居酒屋から少し離れた地域センターへ足を運んだ。夕方の講堂には、折りたたみ椅子と色とりどりの紙飾りが並び、年配の参加者たちが声を掛け合っている。その輪の中心で、社長が忙しなく動いていた。書類を配り、机の位置を直し、誰かの忘れ物を笑って返す。居酒屋で見せる威勢のよさは同じなのに、ここでは威張る相手がいない分だけ、手際の良さが際立って見えた。 熊さんがぽかんと口を開ける。おい、社長。ずいぶん大きな隠れ家じゃないか。社長は汗をぬぐい、肩をすくめた。隠れていたわけじゃない。毎晩の来店は、ここでの活動が終わったあとの息抜きだったという。彼は近所のシニア向けサークルのまとめ役で、月ごとの集まりから地域イベントの準備まで引き受けていた。最近は催しが重なり、夜の一杯に寄る余裕まで削られていたらしい。 先生は眼鏡の奥で苦笑した。つまり俺たちは、社長の第二の顔を知らなかったわけだ。社長は悪びれもせず笑う。第二も何も、こっちが本当の忙しさだ。そう言ったそばから、別の参加者に呼ばれて駆けていく。その背中は、酒場の親分というより、町を引っ張る風のようだった。 拍子抜けしながらも、二人は妙に納得していた。社長が人に慕われるのは、声が大きいからではない。面倒なことを面倒だと言わず、誰かの前に立つことを当然のようにやってのけるからだ。熊さんは腕を組み、あいつ、酒より人を集めるたちなんだなと呟く。先生は静かにうなずいた。 その夜、三人はいつもの居酒屋で再会した。社長は遅れた分を取り返すように地域センターでの出来事を語り、熊さんは大げさに呆れ、先生は淡々と茶々を入れる。すると社長が、今度の地域イベントは店も巻き込むぞと笑った。店主まで巻き込まれ、常連たちが面白がって手を挙げる。空席だった椅子は、もう寂しさの象徴ではない。次の催しの相談が始まる合図になっていた。 やがて熊さんと先生は、手伝いのつもりで地域活動に出入りするようになり、気づけば社長の周りに集まる新しい輪の一部になっていた。名前も知らなかった三人の関係は、酒の席だけでは終わらない。町を少しだけ明るくする役目まで背負いながら、社長はグラスを掲げた。まだまだこれからだ。今度は二人も迷わず笑い、返事をした。だがその瞬間、店の外から聞こえてきたのは祭り囃子ではなく、地域センターから急を知らせる呼び出しの鐘の音だった。社長は立ち上がり、しまった、今夜は本番だと言う。熊さんと先生が顔を見合わせたその時、店主がなぜか慣れた様子でエプロンを外し、私も行くよと笑った。
居酒屋帰りの三人組
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