エラベノベル堂

軽音部、はじめての放課後

全年齢

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4章 / 全10

「さて、次はどれを試す?」 結城先輩の指先に押さえられた一枚だけが、机の上で妙に目立っていた。私はそれを見ながら、胸の奥がじわりと落ち着かなくなるのを感じる。曲決めの続きかと思ったけれど、今日はそれだけで終わらないらしい。 「その前にさ」 鈴木先輩が自分のスマホをひょいと持ち上げた。 「七瀬、明日って何時に来られる? クラスの模擬店の手伝い、あるんでしょ」 「え」 私は思わず固まった。たしかに、教室で配られたプリントに書いてあった気がする。けれど、頭の中では部活の音が大きすぎて、完全に抜けていた。 「ある、はずです。たぶん……」 「たぶんは危ないやつ」 藤堂先輩が笑いながら言う。 「文化祭の前って、予定がごちゃごちゃになるんだよね」 結城先輩も苦笑して、机の上の紙の束をぽんと叩いた。 「部活だけ見てると平気そうに見えても、クラスの準備が重なると一気に崩れるから」 「崩れるって、私ですか」 「七瀬さんは、今まさに崩れかけてる顔」 小野寺先輩の静かな一言に、私は思わず両手で頬を押さえた。 「うそ……そんな顔してます?」 「してるしてる」 「してるねえ」 三人に同時に言われて、もう否定できない。私は机の端に置いた自分の手帳を開いた。薄い表紙の内側には、授業の提出物、模擬店の準備、部活の練習と、殴り書きみたいな文字が並んでいる。 「……見づらい」 「見づらいね」 結城先輩が即答した。 「でも、書いてあるだけ偉い」 その言葉に、少しだけ救われる。私はペンを握り直して、ページの空いたところへ予定を順番に書き直した。模擬店、クラスの役割、部室に来る時間。思いつくまま書いていたものを、時間ごとに並べ替える。すると、散らばっていたはずの用事が、少しずつ一本の線になっていく。 「お、急に几帳面」 鈴木先輩が覗き込んで目を丸くした。 「七瀬、そういうの得意なんだ」 「得意っていうか、放っておくと全部忘れそうで」 「忘れそうだから整理する。えらいね」 藤堂先輩が軽く頷く。 私は赤いペンを取り出して、優先度の高いものに丸をつけた。締め切り、集合時間、持ち物。ひとつずつ確認していくと、不思議と焦りが薄れていく。 「これなら、たぶん回せます」 自分でも驚くくらい、はっきりした声が出た。 結城先輩がそれを聞いて、にやりと笑う。 「たぶん、じゃなくて回せる。七瀬さん、思ったより頼もしいね」 「……本当ですか」 「本当」 その一言が、胸の奥に落ちた。私は手帳を閉じて、さっきまで迷っていた曲名の紙を見直す。予定を片づけたぶんだけ、目の前のことが少し見えやすくなった気がした。 「じゃあ次は、この中から一曲だけ」 結城先輩が最後に残した紙を、今度は私に向けて差し出す。 「七瀬さん、候補を選んでみて」

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