エラベノベル堂

軽音部、はじめての放課後

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小説ID: cmnhinxji000001mzao30hnxr

4章 / 全10

文化祭が近づくにつれて、部室の時間は妙にせわしなくなった。美咲は放課後になるたび、カバンの中で手帳とメモを何度も確かめる。軽音楽部の練習、クラスの模擬店の仕込み、黒板装飾の打ち合わせ、そして当番表。どれも大事なのに、同じ日に重なると、頭の中で音がほどけていくみたいだった。 「美咲、今日の準備って何時からだっけ」 元気な先輩がのんびりした声で聞く。美咲は即答できず、手帳を開いた。左のページには部活、右のページにはクラス活動。さらに付箋が三枚、角からはみ出している。 「六時に機材確認、その前に教室で看板の色塗り、あと委員会の提出が昼休みまで」 言い終えたあとで、自分でも息が少し切れているのに気づいた。 眼鏡の先輩が感心したように目を細めた。 「よく全部入ってるね。しかも順番まで」 「入ってないと、抜けるから」 美咲がそう返すと、穏やかな先輩が小さく笑った。 「なら、ちょっと見せて」 美咲は遠慮がちに手帳を差し出した。すると先輩は、空いている欄に短い矢印を足し、似た内容を丸でまとめ、色違いのペンで移動の順番まで書き込んでいく。まるで散らばった道具を、使う場面ごとに並べ直していくみたいだった。 「これ、分けると楽になるよ。教室、部室、委員会で色を変えると見落としにくい」 「そこまでやる?」 「やると、気持ちが少し落ち着く」 その手際のよさに、美咲は思わず見入った。几帳面なのは知っていたけれど、ここまで頼れるとは思っていなかった。机の端ではドラムの先輩が、提出物の封筒を無言で揃えている。元気な先輩は手帳の端に描かれた小さな矢印を見て、面白そうに笑った。 「美咲、仕切り屋向いてるかも」 「私、そんな感じに見える?」 「少なくとも、今日のうちに何をやるか考えてるのは美咲だけ」 その言葉に、少し照れる。けれど悪い気はしなかった。予定を整理しているうちに、散らばっていた役目が少しずつ線でつながっていく。看板の色も、練習の曲順も、当番の時間も、全部が同じ一日を作っている。美咲はペン先で空白を埋めながら、自分が案外こういう細かい作業を嫌いではないのだと知った。 放課後の窓の外では、運動部の声が遠く響いている。部室の中では、次の集合時間を確認する声が重なり、手帳のページがぱらりとめくられた。美咲はその音を聞きながら、少しだけ胸を張った。まだ余裕はない。それでも、やることを並べれば進める。そんな当たり前のことを、今日はちゃんと自分の手で掴めた気がした。

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