エラベノベル堂

軽音部、はじめての放課後

全年齢

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6章 / 全10

「じゃあ、この曲でいこうか」 結城先輩がそう言ったところで、部室のドアが勢いよく開いた。 「うわ、いた! 軽音の人、まだ残ってた!」 廊下から顔を出したのは、見知らぬ生徒ではなく、息を切らした三年の先輩だった。手には段ボール。中身がかさりと鳴っている。 「助かった。ちょっと手伝ってくれない?」 「今ですか」 鈴木先輩が目を丸くする。三年の先輩は、机に段ボールを置くなり肩を落とした。 「学園祭で使う小道具の数が足りなくてさ。衣装も、一部が行方不明。確認したら、予定より全然少ない」 「少ないって、どのくらいですか」 私が恐る恐る聞くと、先輩は苦笑した。 「足りないのが、ひと目で分かるくらい」 「それ、かなりまずいやつですね」 藤堂先輩が立ち上がる。 「買い出し行く? それとも作る?」 「両方だな」 結城先輩がすぐに答えた。 「買えるものは買う。代わりがきくものは工夫する。足りない分は、手作りで埋める」 「言うのは簡単ですけど」 「言うのは簡単、やるのは大変。文化祭ってそういうもの」 私は段ボールの中をのぞき込んだ。見覚えのある布切れの横に、色の違うリボンや紙飾りが混ざっている。数が揃っていないのは明らかだった。 「これ、こっちの教室で使うぶんですよね」 「そう。だから今から校内を回る。倉庫、被服室、部室の予備。あと、もし無理なら代用品」 「代用品って、たとえば?」 「紙でも布っぽく見せる。厚紙を切って、それらしく塗る。見え方次第」 小野寺先輩が静かに言った。 「本物がないなら、印象を寄せればいい」 「すごい、言い方がもう職人」 私は思わず感心した。 結城先輩が私の手元にメモを押しつける。 「七瀬さん、チェック係お願い。数を数えるの得意そうだから」 「え、私ですか」 「さっきの手帳、頼もしかったし」 その一言で断れなくなって、私はうなずいた。 そこからは、本当に慌ただしかった。藤堂先輩は段ボールを抱えて倉庫へ向かい、鈴木先輩は必要な物をスマホに打ち込み、私は残っている小道具の数を数える。結城先輩は 「足りるもの」 「足りないもの」 「代用できるもの」 と紙を三つに分けていく。 「布が一枚足りない」 「じゃあ、見える面だけ優先して切る」 「リボンは色が違う」 「それは遠目なら分からない。目立つところだけ揃えよう」 「案外いけるかも」 私は紙の端を押さえながら、そう呟いた。 「いけるよ。やり方を分ければ」 結城先輩はそう言って、私に厚紙を一枚渡した。 「これ、飾りの土台に使える。切るの、手伝って」 「はい」 ハサミを入れるたび、紙は少しずつ形を変えていく。うまく切れなくて角が曲がっても、鈴木先輩が 「味だね」 と言い、藤堂先輩が 「むしろ本物っぽい」 と笑う。私はそのたびに、変な力みが抜けていった。 やがて、集まった材料は完全ではないのに、妙にまとまり始めた。足りないからこそ、考える余地がある。色の違う布も、少し曲がった飾りも、並べてみると意外と悪くない。 「これなら、なんとか形になるね」 三年の先輩がほっと息をついた。 「助かった。ほんとに」 「まだ全部終わってませんけどね」 結城先輩が笑う。 「でも、見えてきた」 私は手の中の切り抜きを見つめた。完璧ではない。けれど、工夫したぶんだけ前に進んでいる。 「足りないのって、意外と終わりじゃないんですね」 そう言うと、藤堂先輩がにやっとした。 「むしろ始まりかも」 その言葉に、私は思わず顔を上げる。 結城先輩はメモを閉じ、部室の隅にまとめた材料を見やって、静かに笑った。 「じゃあ次は、衣装のほうももう一回見直そうか」

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