公民館の広間では、机の移動音がまだ残っていた。新たな地域イベントの準備と聞いて集まった五人は、手を動かしながらも、どこか噛み合わない空気を感じていた。 「飾りはもっと派手にしたほうがいい」 野田が金色の襷を揺らす。声に力が入るぶん、周囲の視線が自然と集まる。 榊原は腕を組んだまま、飾り紐の束を見下ろした。 「派手にすればいいってものじゃないだろ。まず人が通れる幅を確保するべきだ」 「通るだけなら地味すぎる。目を引かなきゃ始まらん」 「目を引く前に、転んだら終わりだ」 言い返した榊原の声は低いが、譲らなかった。 佐伯が二人の間に入るように、布の端を整えながら微笑む。 「見栄えも大事。でも、迷わないことのほうがもっと大事じゃない?」 「案内の札は私が書くわ」 早川が静かに言った。 「でも、読む人の目線に合わせないと意味がない。飾りの位置も少し下のほうが親切よ」 三浦は机の上に広げた図面を見つめ、眉間にしわを寄せた。 「わしは、全体の流れを先に整えたい。人が集まる場所ほど、動線が乱れると危ない」 野田はふんと息をつく。 「だからこそ華やかさだろう。賑やかに見せれば、人は来る」 「来ても、落ち着かなければ続かない」 三浦の一言で、場が少し冷えた。 それぞれが正しいことを言っているのに、少しずつずれている。野田は派手さで引きつけたい。榊原は安全を先に置きたい。佐伯は親しみやすさを求め、早川は分かりやすさを気にする。三浦は全体をまとめようとして、かえって重くなっていた。 「まるで、別々の催しを作ってるみたいだな」 榊原がぽつりと漏らした。 野田は口を開きかけて、やめた。いつもなら強く押し切るところだが、今日はそうしたくなかった。 「……悪い」 意外なひと言に、早川が目を丸くする。 「野田さんが謝るなんて珍しいわね」 「無理をして前に出るのは、もうやめる。前に出る役が必要なら、そういう時だけやる。だが今は違うだろう」 三浦がゆっくり顔を上げた。 「そうだな。誰か一人が背負う話ではない」 佐伯が布の結び目を解きながら、穏やかに続ける。 「得意なことは違う。苦手も違う。そこを隠すから、かみ合わなくなるのよ」 「わたしは細かい作業が得意だし、早く動くのは少し苦手」 早川が小さく笑う。 「でも、人の表情を見るのは早いわ。だから変化には気づける」 榊原は短く息を吐き、工具箱を閉めた。 「わしは作るのは得意だが、見せ方は向いてない。なら、見せるほうは任せる」 三浦は図面をたたみ、五人を順に見た。 「なら、わしは判断役に徹する。派手さは野田、整備は榊原、気配りは佐伯、確認は早川。無理に同じ形になる必要はない」 野田は少しだけ目を伏せ、それから金色の襷を手のひらで押さえた。 「じゃあ、わしは目立つことにこだわりすぎない。必要なときだけ前へ出る。そういう役目でいいんだな」 「ええ」 早川が微笑む。 「誰かが無理をして光るより、みんなが自分のままで支え合うほうが、ずっと強いわ」 その言葉に、野田の表情から張りつめていたものが少し抜けた。 公民館の窓の外では、夕方の風がやわらかく木の葉を揺らしている。五人はようやく、同じ方向を向き直した。再出発に必要なのは、前へ出る誰かではない。互いの得意と不得意を認め、その場で一番自然な形を選ぶことなのだと、誰もが静かに理解していた。
町を守る五人組
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