エラベノベル堂

夜更けの噂と共学の学園

全年齢

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5章 / 全10

旧礼拝堂跡は、校舎の奥にひっそりと埋もれていた。扉の金具は錆び、床板は踏むたびにかすかに鳴った。澪たちは懐中電灯を向けながら、中へ足を踏み入れる。埃の匂いの底に、古い紙の乾いた気配が混じっていた。 壁際の棚には、過去の学園行事の記録が箱ごと残されていた。だが、年ごとの冊子を並べていくうちに、澪はすぐに違和感に気づく。文化祭の報告、避難訓練の記録、記念式典の写真。その合間だけが、ぽっかりと抜け落ちている。数年分の空白が、まるで最初からそこに何もなかったように処理されていた。 「これ、抜いてある」 悠真がかすれた声で言った。 蓮が箱の底を確かめ、色褪せた綴じ紐を引き上げる。すると、折れたままの一枚の紙片が出てきた。そこには、旧村の追悼行事と、学園の開校記念式が同じ日に重ねて記された跡があった。だが肝心の本文は黒く塗りつぶされ、行の端だけが不自然に揃えられている。 澪は息をのんだ。これは単なる紛失ではない。誰かが、何かを忘れさせるために空白を作ったのだ。古い村で人々が抱えていた不安、夜に道を見失う怖れ、互いの顔を確かめ合わなければ進めないという暮らし。その感覚が、学校の歴史に吸い込まれるように編み込まれていた。 さらに奥の棚から、薄い封筒が見つかった。中に入っていたのは、当時の校務日誌の写しだった。そこには、ある年を境に行事の名称が少しずつ変えられていく様子が記されている。村の慰霊の日は、生徒会の清掃週間へ。夜の巡回は、防犯指導へ。祈りや不安を抑え込む代わりに、別の言葉へ置き換えていった記録だった。 「吸収されたんだ」 澪は小さく呟いた。 「怖さごと、学校の仕組みに」 悠真は紙片を見つめたまま、喉の奥で息を詰めた。自分たちが怖がっていたものは、誰かの視線そのものではない。言葉を失ったまま残された感情が、場所に染みついていただけなのだ。 そのとき、礼拝堂の奥で、ぱさりと紙がめくれる音がした。三人が一斉に振り向く。誰もいない。だが、積み上がった記録の影の向こうに、夕方の光を受けた影がひとつ、すぐに消えた。 蓮が低く息を呑む。 「今の、誰だ」 澪は返事をしなかった。代わりに、開いた記録の空白へ指を置く。消されたのではなく、埋められたのかもしれない。学校は長いあいだ、地域の不安を受け止める器として機能してきた。そしてその役目を隠すため、真実だけを静かに欠けさせた。 礼拝堂の天井から差し込む最後の光が、空白のページを白く照らした。澪はその白さを見つめながら、ここから先は記録の外にあるものを確かめなければならないと悟った。空白の理由を知る者が、この学園のどこかでまだ呼吸している。

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