翌朝、あおいは菜籠を抱えて駅前へ向かった。今日は友人の結衣と、町の食材をめぐる小さな探索の日だ。大会の練習ばかりでは、どうしても視野が狭くなる。実際に店を歩き、土の匂いの残る野菜や、町工場が作る珍しい乾物を見て回れば、思いがけない組み合わせが見つかるかもしれない。結衣は歩きながら、あおいの顔をのぞき込んだ。昨日の予選、かなり手応えあったんじゃない。あおいは照れくさく笑い、でもまだ足りないと答えた。すると結衣は、足りないから探しに来たんでしょと肩を叩いた。 八百屋の店先には、春の終わりの青菜と、色づき始めたトマトが並んでいた。あおいは葉のやわらかさを確かめ、香りを吸い込む。隣の乾物屋では、地元名産の干し柿を薄く切ったものが売られていた。結衣が首をかしげる。野菜と合うの。あおいは少し考え、合うかどうかより、どんな顔になるか見たいのと答えた。帰り道に立ち寄った味噌蔵の直売所では、香りの強い麦味噌を少し分けてもらう。そこへ、川沿いの市場で見つけた香草と、結衣が勧めた蜂蜜を重ねてみると、頭の中で一つの皿がゆっくり輪郭を持ちはじめた。 試しに、商店街の休憩所で簡単な和え物を作ると、結衣は一口食べて目を丸くした。変なのに、ちゃんとまとまってる。あおいは笑いながら、口の中で喧嘩しそうなものほど、案外仲直りするのかもねと言った。そこへ通りかかった八百屋の夫婦が、何それと興味を示し、味見をすると懐かしそうに頷いた。結衣の隣にいた常連の老人は、昔は甘い柿を味噌に漬けたと話し始め、別の客がそこへ、この町の魚に少し合わせても面白いと意見を重ねる。たった一皿を囲んだだけで、知らない人同士の会話が自然にほどけていった。 あおいはその様子を見つめ、胸の奥が静かに温かくなるのを感じた。料理は勝ち負けだけのものじゃない。誰かを驚かせることもできるし、昔の記憶を呼び起こし、新しい話を生むこともできる。台所で完結する技ではなく、人と人の間に橋をかける手段なのだ。町の食材を抱えた菜籠は、いつのまにか次の挑戦への地図みたいに重くなっていた。あおいはそれを持ち直し、結衣と並んで歩き出す。次は、この組み合わせをどう皿にのせるか。考えるほどに、胸はもっと前へ進みたがった。
あおい、料理大会へ
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