私は翌日の放課後、こっそり友だちを一人連れて映画館へ行った。きみも一緒なら、変な音がしたとき怖くないでしょ、と言うと、友だちは半信半疑の顔をしながらもついてきた。館長は私たちを見るなり、ほんの少しだけ眉を上げたが、追い返しはしなかった。 「今日は二人か」 「調べもの。すぐ終わるよ」 「勝手に席を動かすなよ」 ぶっきらぼうな言い方なのに、声は前より固くない。私はそれだけで、少しだけうれしくなった。客席に入ると、友だちはまず背筋を伸ばして座り、私は昨日までに見つけたへこみのある席を順に確かめた。すると、音が聞こえる場所には不思議な共通点があった。前から三列目の右端、中央のやや左、そして通路側の最後列。どれも、同じ時間になるときまってかすかな音が届く。 私は時計を見上げた。ちょうど上映開始の少し前だ。スクリーンが明るくなる直前、席の下から、ふっと空気が動くような音がした。友だちが目を丸くする。 「今の、聞こえた」 「うん。ここ、時間で鳴ってるみたい」 私は立ち上がり、席の下を覗き込んだ。古い金具に細い糸が残っている。引けばどこか別の場所が鳴る仕掛けかもしれない。さらに、壁際のスピーカーの近くには、前に見つけたのと同じ種類の紙片がもう一枚挟まっていた。そこには、薄れた字で上映中は驚くな、とだけ書かれている。 館長が近づいてきて、その紙を見ると、長く息を吐いた。 「まだ残っていたのか」 「これ、やっぱりわざと?」 「昔の催しの名残だ。子どもが来たら喜ぶだろうと、あちこちに仕掛けた連中がいた。だが、全部を直す暇がないまま時が過ぎた」 私は友だちと顔を見合わせた。声の正体は、ひとつじゃなかったのだ。古い装置のずれと、誰かが残した録音と、昔の遊び心が重なって、あの不思議な囁きになっていた。しかも、特定の席と時間にしか聞こえないのは、仕掛けが今も生きている証拠だった。 「ねえ館長」 私は紙片を胸に当てた。 「これ、直すんじゃなくて、見せたらどうかな。昔の音が鳴る映画館って、面白いよ」 館長は驚いたように私を見た。次の瞬間、困ったみたいに口元をゆるめる。 「面白い、か」 「うん。秘密がある場所って、来たくなるもん」 その言葉に、館長は何も言わなかった。ただ、案内板の札をそっと整える手つきが、いつもよりやさしく見えた。私は確信した。まだ全部は終わっていない。でも、この映画館は少しずつ、隠す場所から分け合う場所に変わり始めている。しかもその最初の一歩を、私たちが踏んだのだ。
古い映画館の声
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