エラベノベル堂

図書館の心霊写真

全年齢

小説ID: cmnhjqti9001t01mzyazudr6l

5章 / 全10

ぼくは古い校内新聞をめくる指先を止めた。結衣が藤棚の前で撮ろうとしていた相手は、名簿に書かれた写真係の弟だったのだろうか。それとも、途中で入れ替わった誰かだったのか。紙の上では簡単に見えるのに、そこで起きたことを想像すると、胸の奥がじわりと冷えていく。 真央も黙って、年度誌の隅を見つめていた。そこには小さく、写真係が変わった理由を示すような記述があった。急な体調不良で、兄が代わりにカメラを持ったらしい。だけど、その日の集合写真には、結衣を待っていたはずの位置がぽっかり空いていた。誰も気づかなかったのか、それとも気づいたからこそ、記録に残せなかったのか。ぼくには後者のほうが怖かった。 ぼくたちはさらに資料を探した。すると、古い封筒に入ったままの小さなメモが見つかった。字はかすれていたけれど、結衣の名前の横に、次は必ず二人で、と読める短い言葉が残っている。けれど、その下に別の筆跡で、先に行くな、待っていてくれ、と重ね書きされていた。どちらも約束だった。なのに、同じ一枚の写真に残るはずの気持ちが、二つに割れてしまったみたいだった。 ぼくはふと、あの写真の暗い端を思い出した。そこに立っていた影は、ただ怖がられるために写ったんじゃない。写る理由を失ったまま、ずっと呼び戻されるのを待っていたのだ。そう考えた瞬間、心霊写真へのわくわくした気持ちが、細い針のような不安に変わった。知らないものに近づくのは楽しい。でも、その奥に人の名前や約束が隠れているなら、ぼくはもう無邪気には笑えない。 真央が、これ、もう怪談っていうよりさ、とつぶやいた。うん、とぼくはうなずいた。誰かが置いていった怖さじゃなくて、取り残された気持ちそのものなんだと思う。 その夜、ぼくは家に帰ってもアルバムを開けなかった。代わりに、写真に写っている人たちのことをもっと知りたいと思った。怖いのに、見届けなきゃいけない気がした。あの写真は、見た人を驚かせるための一枚ではない。撮られなかった時間を、ずっと抱えたまま残っているだけなのかもしれない。ぼくはようやく、その重さに気づき始めていた。

5章 / 全10

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