翌朝、ぼくは自分の机を見て、思わず足を止めた。椅子の背にかけた上着、筆箱、消しゴム、昨日まで何の変哲もなかったはずの並びが、あの古い写真の右端とそっくり同じになっていたのだ。黒い布の代わりみたいに、窓から落ちる影が机の角をぴたりと切り取り、鉛筆立てだけが少し奥へずれている。誰かが整えたみたいなのに、触った形跡はない。 気のせいだと笑おうとして、ぼくは息をのんだ。ノートの端には、見覚えのない白い紙切れが一枚、はさまっていた。開くと、古い写真の隅にあったのと同じような、薄い手書きの文字が読める。今度はちゃんと二人で。字はかすれていたけれど、昨夜まで見ていた記録の言葉と重なって胸がざわついた。 真央に見せると、彼女は眉を寄せたまま、机の上をじっと見回した。すると、私物の並びが互い違いに揃っていることに気づく。ペンケースの位置、教科書の角度、水筒のふたの向きまで、まるで写真のなかの配置をなぞったみたいだった。しかも、ぼくの机だけじゃない。教室の後ろの棚に置いた掃除道具も、昨日とは違う並びで、暗がりに細い筋を作っている。 そのとき、窓際からかすかな音がした。見上げると、カーテンのすそが、風もないのに一度だけ揺れていた。けれど揺れたのは布だけではない。窓ガラスに映った教室の景色の端で、何もないはずの場所がほんの少し濃く見えた。そこに、待ち続けるような形がある気がして、ぼくは思わず机の前を離れた。 授業中も落ち着かなかった。ノートを開けば、最初のページだけがなぜか少し黄ばんで見える。給食の時間、箸を置いた瞬間に、食器の並びが写真の中と同じ順番になっていることに気づいた。廊下を歩けば、自分の影が一拍遅れてついてくる気がした。怖いのに、目をそらせない。まるで、校舎そのものが静かに昔へ寄っていくみたいだった。 放課後、ぼくと真央はもう一度資料室へ行った。あの白い紙切れと同じ筆跡を探すためだ。すると、年度誌の最後に挟まっていた一枚の写しが見つかった。そこには、結衣の名前の下に、小さく写真係の弟の名前が記されている。さらにその横へ、兄が後から書き足したらしい細い文字があった。場所が違っても、また同じところで撮ろう。ぼくはその一文を見て、ようやく気づいた。あの写真は、約束が果たされないまま場所だけを残し続けていたのだ。 その瞬間、背後でぱたりと音がした。振り向くと、閉じたはずのアルバムが開いている。右端の暗がりに、今の教室と同じ並びが写りこんでいた。ぼくの机、筆箱、窓の光。そして、そこに立つはずのない細い影。けれど、その影は怖いものではなかった。待っているというより、こちらを確かめるように、静かにページの奥でこちらを見ていた。
図書館の心霊写真
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