ぼくは古い記録の束を机に広げ、息を詰めた。真央がライトを少し寄せると、黄ばんだ紙の端に細い文字が浮かび上がる。そこには、結衣が藤棚の前で交わした約束の続きを、写真係の兄が必死に残そうとした跡があった。あの日、弟は撮影の直前に転んで手首を痛め、代わりに兄がカメラを持った。けれど兄は、結衣に伝えるための短い言葉を記録に挟み、場所が違っても必ず同じ場所へ戻る、と書き残していた。写真を待つ結衣と、戻ってくるはずの弟。そのどちらも守ろうとして、誰も失いたくなかったのだ。 ぼくはページの隅に挟まっていた手紙の写しを見つけた。そこには、撮れなかった一枚をいつか撮り直そうという文と、先に行くな、必ず迎えに行くという、二つの願いが重なっていた。約束は一つではなく、互いに結び合っていたのに、どちらか一方だけが残されてしまったらしい。だから写真の端に、帰り道を探すような影が写り込んだのだと、ぼくはようやくわかった。 真央が、これ、もしかして、と言いかけたその時、アルバムのページが勝手にめくれた。古い写真の裏から、もう一枚、薄い焼け跡のある紙が落ちる。そこにあったのは、結衣の小さな筆跡だった。約束を忘れないで。次は三人で撮ろう。 ぼくは思わず顔を上げた。三人という数に、心臓が強く跳ねる。結衣、弟、そして写真を持つ兄。だが、記録の最後に押されていた朱色の印は、写真係の弟の名前の欄だけを静かに照らしていた。真央が読み上げる。弟は戻らなかったのではなく、最初から結衣に会う約束を果たせないまま、兄にその思いを託していたのだと。 その瞬間、図書館の奥でかすかなシャッター音がした。振り向いても誰もいない。けれど、窓ガラスに映ったぼくたちの背後には、黒い布の前で並ぶ三つの影が、ほんの一秒だけ重なって見えた。怖いはずなのに、不思議と冷たさはなかった。取り残されていたのではなく、ようやく順番が戻ってきたみたいだった。 ぼくはアルバムを閉じ、そっと胸に抱えた。約束は、怪談の芯にあるのではなく、誰かが守ろうとしたやさしさの形だった。ぼくが見たかったのは、ただ不気味な写真じゃない。その向こうで、最後まで待っていた気持ちだったのだ。
図書館の心霊写真
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