ぼくはアルバムを閉じようとして、指先が止まった。右端の暗がりから、まだ何かがこちらを見ている気がしたからだ。怖い。逃げたい。そう思った瞬間、机の下が急に遠くなって、足が床に吸いつくみたいに動かなくなった。 真央が、ぼくの袖をぎゅっとつかんだ。 「大丈夫、ひとりで見なくていい」 その声はいつものからかう調子じゃなく、まっすぐで温かかった。ぼくはうまく息ができないまま、彼女の顔を見た。真央は、画面の中の影を見つめていたけれど、目はもう逃げていなかった。 「これ、こわいけどさ」 と真央が言う。 「たぶん、ただ出てきたかったんじゃないよ。待ってたんだと思う。写った人たちも、写せなかった気持ちも、みんな」 その言葉で、ぼくの胸の奥にあった硬いものが少しだけゆるんだ。怖さは消えない。けれど、そこにあるのは化け物じゃなくて、うまく届かなかった約束と、置き去りにされた時間だ。なら、目をそらすより、受け止めたほうがいいのかもしれない。 ぼくはゆっくりアルバムを開き直した。ページの端に写る影は、もう脅かすみたいには見えなかった。ただ、何かを伝えようとしている。ぼくは記録の紙を並べ、結衣の名前、弟の名前、兄の名前を声に出して読んだ。真央もそっと続ける。名前を呼ぶたび、部屋の空気が少しずつやわらいでいく気がした。 そのとき、アルバムの中の校庭が、ふっと明るくなった。暗がりの端にいた輪郭が、三つに分かれて、重なって、やがて同じ方向を向く。まるで、ようやく順番が整ったみたいだった。ぼくは息をのみ、逃げずに見届けると決めた。 真央と並んで、ぼくは古い写真を見つめ続けた。怖かった。でも、その怖さの奥に、誰かの待ち続けた気持ちがあった。受け止めることは、消すことじゃない。残された思いに、ちゃんと居場所を返すことなんだ。ぼくはようやく、それを知った。
図書館の心霊写真
全年齢小説ID: cmnhjqti9001t01mzyazudr6l
