三回目の練習でも、五人は最初から噛み合わなかった。ギターの男は譜面を何度も書き直し、ベースの青年は音を減らすことで整えようとし、ドラムの女は拍を揺らさずに固定したがった。派手な髪色の女は、もっと歌が立つ構成にすべきだと主張し、ボーカルの青年はまず全員が同じ景色を見ないと始まらないと言った。誰の言葉も間違ってはいないのに、正しさだけが部屋の中でぶつかり合い、進むはずの時間を押し返していた。 途中でギターの男がため息をつき、では一度全部消してゼロからやるかと言い出した。だがゼロに戻せば、また同じ議論が始まるだけだった。短髪の女は腕を組み、そんな遠回りをするくらいなら最低限だけ決めればいいと低く言った。何を今さら、と派手な髪色の女が笑いかけたが、笑い切る前に言葉が止まる。 最低限だけ。ボーカルの青年がその言葉を拾った。 「じゃあ、目標をひとつにしない? 今日は合わせることだけ。完璧じゃなくていいから、最後まで止まらずに通す」 部屋が静かになった。誰も派手な理想を語らない。その代わり、今日だけ守る小さな約束なら飲み込める気がした。ギターの男が先に頷き、ならテンポはドラムに任せると言う。短髪の女は一瞬だけ目を細め、わかった、ただし合図は二拍前に、と条件を返した。ベースの青年は、余計な音を増やさない代わりに低音で支えると決め、派手な髪色の女は歌の出入りを自分が見切ると引き受けた。 その日から、五人は細かな好みを持ち込む代わりに、共通の作業手順を作った。最初に短く目標を言う。次に止める回数を決める。最後に、一度通したら必ず一人ずつ感想を言う。たったそれだけだったが、まとまらなかった音は少しずつ輪郭を持ち始めた。 そして不思議なことに、誰かが譲るたび、別の誰かの強さが前へ出た。ギターの男の細部への執着は、曲の骨格を守る力になった。ドラムの女の冷静さは、全員を同じ速度に戻した。ベースの青年の静けさは、土台として頼もしかった。派手な髪色の女の押し出しは、曲に熱を与えた。ボーカルの青年の柔らかさは、衝突した空気の隙間をつないだ。 このままいけば、意外と形になるかもしれない。そう思った瞬間、スタジオのドアが開き、企画会社の担当者が小さな封筒を抱えて入ってきた。来月の出演順が変わったという連絡だった。五人の出番は、なんと最初になっていた。
相性最悪、最強の五人
全年齢小説ID: cmnhynd3m002601mzpmb0z05s
