エラベノベル堂

相性最悪、最強の五人

全年齢

小説ID: cmnhynd3m002601mzpmb0z05s

4章 / 全10

練習の回数を重ねるうちに、五人の間には奇妙な分業が生まれていた。誰かが指示したわけではない。ただ、得意なことに手を伸ばしただけだった。 ギターの男は、譜面を床に広げて曲の流れを何度も組み替えた。細かすぎると笑われても、彼が一度筋を通すと全員の迷いが減る。ドラムの女は練習時間の始まりをきっちり告げ、止めるべき場面では迷わず手を上げた。無駄がないぶん、空気まで引き締まる。ベースの青年は黙って機材を運び、重いアンプを一人で持ち上げると、誰も文句を言わずに済んだ。派手な髪色の女は、曲の修正が済むと真っ先に宣伝用の文章を考え、短い言葉で人の目を引く。ボーカルの青年は、練習前後の連絡をまとめ、誰が遅れるのか、何を持ってくるのかを淡々と整えた。 それぞれが違う方向を向いているのに、動き始めると不思議と噛み合う。外から見ればぎこちなく、会話のたびに一拍ずれるのに、作業だけは妙に早かった。機材を積み込む車内では誰も音楽の話をしないのに、次の練習場所の鍵の確認や、配るチラシの部数が自然に決まっていく。誰かが忘れそうなことを、別の誰かが拾う。それだけで、バンドらしい輪郭が少しずつ浮かび上がった。 ある日、練習後の帰り道で、派手な髪色の女がスマートフォンを見せた。街角の掲示板に貼られた、彼らの告知画像が思いのほか目立っている。見た瞬間、ギターの男は顔をしかめたが、よく見ると文字の配置だけは妙に読みやすい。ボーカルの青年が、これなら通りすがりでも目に入ると言うと、ドラムの女が小さく頷いた。 「音はまだばらばらでも、仕事はできるんだな」 誰が言ったのかは曖昧だった。だが、その曖昧さがかえって心地よかった。相性が悪いからこそ、押しつけずに役割だけが残る。そう気づいたとき、五人は初めて、同じ部屋にいる意味を音以外で確かめられた気がした。 その夜、ボーカルの青年が送った連絡には、練習時間でも曲順でもなく、ひとつだけ短い文が添えられていた。明日の搬入、少し早めに来られる人だけで大丈夫です。送信したあと、全員が既読を付ける前に、見知らぬ番号から返事が届いた。次の出演先の主催者だった。うちの受付、君たちにお願いしたい。妙に頼りになりそうだから

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