最初にそれに気づいたのは、いつもなら何も言わずに機材を抱える長身の青年だった。搬入のあと、スタジオの隅でベースケースを立てかけたまま、彼は珍しく立ち尽くしていた。視線の先にあるのは、指先でしわを伸ばした古いメトロノームではなく、棚の奥から出てきた一枚の写真だった。色あせた紙の中で、制服姿の五人がぎこちなく並んでいる。誰も笑っていない。だが中央にいる彼だけが、今よりずっとあどけない顔で、うつむいていた。 派手な髪色の女がそれを覗き込み、すぐに表情を変えた。 「これ、誰?」 青年は答えなかった。ギターの男が写真を受け取り、端に小さく書かれた日付を見る。二年前。学校祭の打ち上げの控え室だった。彼はそこで、誰にも言わずに弦を外し、二度と人前で弾かないと決めたのだという。指の動きが鈍るたびに、あの日の空気が戻ってくる。音を外した瞬間の沈黙、笑いをこらえた同級生の顔、何より、自分が一番先に逃げ出した恥ずかしさが。 「だから、合わせるの嫌だったのか」 派手な髪色の女の言葉は、責める響きではなかった。けれど彼は肩を強張らせたまま、そうだ、とだけ言った。あの日から、誰かと音を重ねるたび、失敗の手触りが先に浮かぶ。正確に弾こうとするほど息が浅くなり、少しでも乱れると全部が終わる気がした。だから彼は、細かく決めたがった。決めてしまえば、崩れる前に言い訳ができるからだ。 部屋が静かになった。ドラムの女は視線を落としたまま、スティックを指で回している。ボーカルの青年だけが、急かさない声で言った。 「それでも、止まらずにやれてるのは、すごいことだと思う」 青年は笑わなかったが、目だけが少し揺れた。派手な髪色の女はため息をつき、写真を元の棚に戻す。 「先に言えって話。こっちはただ機嫌が悪いのかと思ってた」 「悪い日もある」 そう返すと、彼女は肩をすくめた。 「あるに決まってる。でも、全部それで片づけられると腹が立つ」 言い合いになりかけた空気を、ベースの青年が低い声で切った。 「失敗が怖いなら、怖いままでやればいい。止まるよりましだ」 その言葉に、ギターの男はしばらく黙っていた。やがて、短く息を吐く。 「……次、俺がずれたら止めてくれ。先に言っておく」 完全な和解ではなかった。写真一枚で過去が消えるわけでもない。だが、彼の事情を知ったことで、誰も声を荒げる気にはならなくなった。責める代わりに確認し、押し切る代わりに待つ。たったそれだけで、部屋の温度は少し変わる。 その夜の最後の通しは、以前より遅く、以前より静かだった。それでも、五人は一度も止まらなかった。
相性最悪、最強の五人
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