旧校舎の広間から戻ったあと、僕たちは手当たり次第に聞き込みを始めた。真鍋は二年の教室へ、僕は職員室の前をうろつきながら、失踪した佐伯の足取りを追った。最初は誰も決定的なことを知らない様子だったが、話を重ねるうちに、少しずつ輪郭が浮かび上がってくる。佐伯は昨日の放課後、文化祭の出し物に使う古い資料を見たいと言っていたらしい。行き先は旧校舎の記録室。だが、そこへ向かう姿を見た生徒はいても、戻るところを見た者はいなかった。 意外だったのは、旧校舎の壁画がただの怪談ではないと、教師たちが薄々知っていたことだった。用務員の小林先生は渋い顔で、あれは昔の生徒会が作った記念の壁だと教えてくれた。文化祭ごとに少しずつ絵が増え、卒業する学年が自分たちの姿を残していったという。派手な伝統ではないが、長く続いていたらしい。だが十数年前、ある年を境に更新が止まり、そのまま旧校舎ごと立ち入りを禁じられたのだという。 「怪談扱いされたせいで、みんな黙ってただけだろうな」 小林先生はそう言って苦笑した。けれど、その口調には、何かをはぐらかすような鈍さがあった。僕は机に積まれた古い台帳を覗き込み、文化祭実行委員、旧校舎保存会、生徒会の文字を見つけた。ページの端には、壁画の修復に関する簡単な記録もある。どうやら壁は勝手に絵を変えるわけではなく、代々の生徒たちが手を入れていたらしい。では、今の変化は誰が、何のために。 その夜、真鍋が図書室の奥で見つけた学園史の冊子を持ってきた。ページの隅に、佐伯の字で小さな走り書きがある。壁画は記憶の帳簿。忘れたくないことほど、ここに残る。僕たちは顔を見合わせた。まるで佐伯が、最初から僕たちに辿らせるつもりで痕跡を置いていったみたいだった。怪異のように見えたものは、実は学園の誰かが抱えた思い出の仕組みかもしれない。だが、それなら佐伯は今、どこで何をしているのか。記録の最後には、旧校舎の鍵を持つのは生徒会室だとだけ書かれていた。壁画の秘密に近づく鍵は、まだ校舎の別の顔の中に隠れている。
旧校舎の壁画と失踪
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