エラベノベル堂

旧校舎の壁画と失踪

全年齢

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5章 / 全10

旧校舎のことを追い始めてから、僕たちの放課後はすっかり落ち着かなくなった。文化祭の準備期間に入ったせいで、校内はどこへ行っても段ボール箱と装飾用の布、呼び止める先輩や借り物の確認でごった返している。真鍋と僕は佐伯の痕跡を探すつもりで動いていたのに、気づけば生徒会室への届け物を持たされたり、掲示板の貼り紙を剥がしたりと、調査とは別の雑務に飲み込まれていた。 「四時に三階の広間だっけ」 真鍋がメモを見ながら首をひねる。僕も頷いたが、次の瞬間には別の先輩に呼ばれていた。急いで向かった先は、なんと体育館裏だった。そこでは模擬店の部材が運び込まれていて、僕たちは佐伯の手がかりではなく、紙の山に埋もれたまま迷子になった。 ようやく旧校舎へ戻れたのは夕方近くだった。広間にはまだ誰もいない。壁画の前で息を整えた僕たちは、ふと床の隅に落ちた小さな紙切れを見つけた。真鍋が拾い上げる。破れた端に、見覚えのある丸い字が残っていた。文化祭、七時、合図を忘れずに。続きは半分欠けていて読めない。けれど、その筆跡は佐伯のノートと同じだった。 「合図って、何だろう」 僕がつぶやくと、真鍋は壁画を見上げた。すると、描かれた生徒たちのひとりが、まるでこちらにだけ分かるように、手の位置を変えているように見えた。肩に添えた指先が、どこかで見た合図の形に重なる。偶然にしては出来すぎている。僕たちは思わず顔を見合わせた。 そこへ廊下の向こうから、文化祭実行委員の大声が響いた。誰かが旧校舎の鍵を探しているらしい。準備で行き来する人々の波に紛れて、僕たちはまた一度、目の前の手がかりを取り逃がしそうになった。だが、その騒がしさの隙間で、もう一枚の紙片が風に飛ばされてきた。拾い上げると、そこには短く、旧校舎の壁画は見えない合図を残す、とだけ書かれていた。 壁画はただの絵ではない。何かを知らせるために、わざと目に留まるように更新されている。そう考えた途端、失踪した佐伯の沈黙が、逃げた足跡ではなく、僕たちへの呼びかけに思えてきた。文化祭の喧騒が遠くで高まり、窓の外が赤く染まる。僕たちは紙片を握りしめたまま、次の合図が来る場所へ向かうことにした。

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