エラベノベル堂

沈みゆく船と楽団

全年齢

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6章 / 全10

水密扉の閉鎖が始まったという知らせは、通路の奥から鈍い音とともに伝わってきた。鉄の壁が一枚ずつ降りるたび、船内は少しずつ区切られていく。さっきまで行き来できたはずの道が、もう戻れない一本道へ変わっていく気配に、団員たちは互いの顔を見失わないよう身を寄せた。 レオンは広間の端で立ち止まり、閉ざされた扉の向こうを見た。演奏を続けるには人数が足りない。だが、案内に回るにも、残された客の流れを見なければならない。彼は短く息を吸い、棒を握り直す。 「ここから先は、二手に分かれる。音を残す者と、人を送る者だ」 言葉はそれだけだったが、誰も迷わなかった。ソフィアがすぐに弦を肩にかけ直す。彼女の指はまだ震えていたが、目だけは落ち着いていた。ミナはエドガーから託されたケースを抱え、うなずく代わりに唇を結ぶ。打楽器の青年は客席のざわめきへ目を向け、最後の誘導に備えていた。 「私は奥へ行く」 エドガーが言った。年長の彼が自ら名乗り出たことで、空気がひときわ静かになる。彼は自分の楽器を撫でるように持ち直し、閉まりかけの扉の前へ進んだ。そこは、もう戻るための場所ではない。だが彼の背中には、妙なほど揺るがないものがあった。 「扉の先で止まる人がいる。誰かが声をかけなければ、そこで流れが止まる」 レオンは反対しなかった。代わりに、深く頭を下げた。長い年月を重ねた者の覚悟は、若い足を前へ押す。ミナは思わず一歩出かけて、しかし止まる。託された音を守ることが、今の自分の役目だと理解していたからだ。 扉は、金属の獣のような音を立てて降りた。区切られた先で、人の声が遠くなる。レオンは残った者たちを見回し、短く告げた。 「次の合図で動く。三歩で曲がる。誰も置いていくな」 その一言で、皆の肩から余計な力が抜けた。完璧な指示ではない。けれど、今はそれで十分だった。ソフィアが小さく弓を上げ、ミナが呼吸を整える。打楽器の青年は床の傾きを確かめ、車椅子の客へ手を伸ばした。エドガーは閉じゆく扉の向こうへ進み、最後に振り返ることもなく行ってしまう。 残された空間は狭い。それでも、その狭さがかえって心を近づけた。レオンが棒を振り下ろすと、ほんの数人の音が、かすかな光のように広がる。もう大きな広間ではない。だが、この小さな場所で生まれる音は、確かに次の一歩を照らしていた。

6章 / 全10

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