エラベノベル堂

仮面夜会の招待状

全年齢

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7章 / 全10

灯りが落ちた瞬間、広間のざわめきは潮が引くように遠のいた。白い仮面も黒い仮面も、暗闇の中では輪郭だけが浮かび、誰が誰なのか、ますます判別できない。アカネは息を呑み、手元のカードを見下ろした。淡く浮かんだ文字は、確かに彼女の名前を示していた。見知らぬはずの場所で、見知らぬはずの誰かに、最初から覚えられていたのだ。 背後で椅子が静かに引かれる音がした。振り向くと、黒い仮面の男が、いつの間にかすぐそこに立っている。さっきまでの軽さはなく、声も低く沈んでいた。 「遅かったね」 「何のことですか」 「君がここに来る前から、誰かが君を見ていた。僕らの争いに、巻き込まれる形でね」 争い。その言葉に、広間の空気が一段冷えた気がした。アカネは喉を鳴らす。誰かの派閥があることは薄々感じていた。だが、夜会の裏で対立している相手がいるなら、自分はただの客ではいられない。 「僕を脅しているんですか」 「助けているつもりだよ」 その返答が、いちばん信じられなかった。男は仮面の縁を指先で押さえ、続ける。 「表向きは交流の場だが、本当は人を集めて、味方と敵を仕分ける場だ。主催側の一部はそれを利用している。もう一方は止めようとしている。だが、どちらも君に近づいている」 アカネの背筋が強ばった。どちらも自分に近づいている。つまり、彼女は偶然の来訪者ではなく、最初から歯車のひとつだったのかもしれない。胸の奥で、好奇心が形を変え、不安と混ざり合う。信じるべきは誰だ。目の前の男か、あの意味深なメッセージを送ってきた別の誰かか。それとも、どちらも同じくらい危ういのか。 男は一歩引いた。 「今なら帰れる。でも、帰った先でも君はもう外側にはいない」 その言葉で、アカネは悟った。自分は傍観者のままだと思っていたが、もうとっくに中心へ押し出されていたのだ。たった一度の気まぐれで踏み込んだ夜会は、彼女の退屈を満たす遊びでは終わらない。選ぶ側だと思っていた自分が、実は選ばれていた。 出口へ向かうか、奥へ進むか。暗闇の中で、アカネは仮面の奥に隠したまま唇を結んだ。怖い。けれど、その怖さは逃げるためだけのものではない。誰を信じるべきか分からないなら、せめて自分の目で確かめるしかない。彼女はカードを握りしめ、灯りの戻らない広間へ、もう一歩だけ踏み出した。

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