エラベノベル堂

仮面夜会の招待状

全年齢

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9章 / 全10

アカネは、手の中のカードを見つめたまま動けなかった。暗がりの中で淡く浮かぶ印は、ただの装飾ではない。仮面の夜会に足を踏み入れた瞬間から、自分は誰かの視線の網の中にいたのだと、今さら理解した。 広間の奥では、灯りが落ちたままのはずなのに、いくつかの影だけが忙しく動いている。誰かが何かを隠し、誰かがそれを追っている。アカネは息を殺し、壁際の飾り棚へ身を寄せた。そこで見つけたのは、一枚の封筒だった。金の糸で縫い留められた細い口。中には会場の見取り図と、短い走り書きが入っている。東の書庫、開かずの扉の内側。真実はそこ。 胸が強く鳴った。誘導なのか、警告なのか、もう判別できない。だが地図の端に押された印を見た途端、アカネは思い当たった。あの黒い仮面の男が、以前ちらりと触れたカードの合図と同じだ。彼が敵なのか味方なのかは分からない。ただ、少なくとも何かを知っている。 アカネは混乱の渦の中を、音を立てないように進んだ。広間から伸びる回廊は、古い洋館らしく長く、窓の外の闇が鏡みたいに彼女を映しては消す。途中、仮面の女性が立ち止まり、まるで最初から待っていたように囁いた。 「見つけたのね」 「これは何ですか」 「答えに触れる鍵よ。でも、触れた瞬間、いくつかの関係は壊れる」 言葉は静かだったのに、背筋に冷たいものが走る。アカネは封筒を握り直した。壊れる。夜会そのものが、誰かの均衡の上で成り立っているのだとしたら、この一枚で崩れてしまうかもしれない。けれど、崩れるからこそ隠されていたものが見える。 東の書庫の扉は、想像よりもあっさり開いた。中は紙の匂いが濃く、壁一面に古い帳簿と名簿が並んでいる。アカネの目は、その中の一冊に吸い寄せられた。参加者の本名、仮面の符号、招かれた日付。そこに、彼女自身の名まで記されている。しかも、紹介者の欄には、友人の名前。 息が止まる。偶然じゃない。最初から、彼女は選ばれていた。 背後で、扉が静かに閉まった。振り向くと、黒い仮面の男が立っている。仮面の向こうの声は、いつになく低い。 「見たんだね」 「私を呼んだのは、誰ですか」 男は答えない。沈黙が長く伸び、やがて彼は小さく息を吐いた。 「今ここで、その名を知れば君は戻れない」 アカネは名簿を見下ろした。怖い。けれど、もう見ないままでは帰れない。彼女はゆっくりとページをめくり、最後の欄に書かれた一文を読み取った。夜会は交流の場ではない。これは、継ぐ者を探すための試みである。 予想もしなかった文字が、静かに胸へ落ちる。選ばれていたのは、客としてではなかった。アカネは仮面の紐に触れ、初めて自分がこの夜会の外へ出る側ではなく、中へ進む側に立たされているのだと知った。

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