町外れへ向かう馬車道を外れ、僕らは地面の傷を追った。草は不自然なほど倒れ、ところどころで土がぬかるんでいる。水路でもないのに、細い流れが一本の筋になって森の奥へ伸びていた。男がしゃがみ込み、指先で泥をすくう。そこには淡い光を反射する粒子が混じっている。 これは上から落ちたんじゃない。下へ吸われた跡だ。 その言葉に、僕は息を止めた。地面の下へ、魔力そのものが引きずり込まれている。見えない井戸みたいに、何かが森の底で呼吸しているのだ。流れをたどると、倒木の陰に古い石板が露出していた。苔に覆われた刻印を拭うと、階段の縁が見える。地下へ続く、遺跡の入口だった。 中は湿っていた。石壁にはひびが走り、天井から落ちた雫が耳障りな音を立てる。だが静かすぎる外より、ここはずっと嫌な気配が濃い。階段を降りきった先で、広間の中央に砕けた装置が横たわっていた。輪のような金具、割れた水晶、絡まった管。まるで巨大な機械の心臓を引き裂いた残骸だった。 男が顔をしかめる。魔力を集める装置か。しかも古い。止めるだけなら簡単じゃない。 壁際には、同じ符号が何度も刻まれていた。周囲の魔力を集め、保管し、循環させるための図式らしい。ところが装置は壊れているのに、周囲の空気だけが妙にざわついている。僕は目を凝らし、床の溝を見つけた。そこへスライムの痕が吸い寄せられている。粘液が流れ込むたび、遺跡の奥に沈んだ力が目覚める仕組みだったのかもしれない。 つまり、あいつらはここで増やされていた。餌じゃない。魔力を集めるための、生きた器みたいに。 背筋が冷えた。自然に見えた群れの異常繁殖は、偶然でも災厄でもなかった。誰かが作り、誰かが壊し、そして今もまだ、どこかで続きが動いている。そう思った瞬間、広間の奥で、からり、と乾いた音がした。 振り向くと、崩れた祭壇の上に、小さな札が一枚残っている。誰の手で置かれたのかはわからない。けれどそこには、ただ一言、戻れ、という文字が刻まれていた。 男と顔を見合わせる。遺跡に来いと言われたのではない。来ることを、先に知っていた誰かがいる。僕は喉の奥で息を飲み、地下の暗がりのさらに向こうを見つめた。追っていたのはスライムの発生源ではなく、僕らを試すための入口だったのかもしれない。
粘液の異世界迷宮
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