エラベノベル堂

潜入捜査官、罠を破る

全年齢

小説ID: cmnkiyux8000001s2ptmisbom

4章 / 全10

葉月は伝票の束を戻し、何気ないふりで周囲の配置を見直した。さっきの男の表情は、やはりただの戸惑いではない。誰かが予定を変えた。それも直前に、かなり上の段階で。倉庫の空気は一段とざわつき、搬入口のほうでは人の流れが細かく組み替えられていた。 本来なら、今夜の山場は中央の検品台で始まるはずだった。品の受け渡し、確認、帳面への記録。その一連を、葉月は近くから押さえるつもりだった。だが、目立たないはずの小口の搬出が急に優先され、肝心の荷は奥へ押し込まれていく。視界の届く範囲から、証拠が一枚ずつ遠ざかっていくようだった。 それでも葉月は焦らない。焦った者から外れるのが、この手の場だ。彼女は紙片を指先で折り、観察の軸を変えた。正面が塞がれたなら、裏を見ればいい。荷の流れが止まる場所には、必ず人が残る。人が残る場所には、言葉にされない上下関係がある。 彼女は棚の列を回り、作業員のふりをして別の通路へ入った。そこは表の喧騒より静かで、天井近くの配線音だけが細く鳴っている。箱の陰に立つと、先ほどの連絡係の男が奥へ急かされるのが見えた。上役が短く指を鳴らし、男は青ざめた顔で頷く。どうやら予定変更は、誰かにとっても想定外らしい。つまり、そこに割り込めば綻びが見える。 葉月は壁際の小窓に目を留めた。搬入用の控え室へ続く通風口のそばで、帳面を運ぶ女が立ち止まり、慌ただしくページをめくっている。彼女の動きは、記録を守る人間のそれではなく、書き換えを急ぐ人間のそれだった。葉月はその瞬間を逃さず、通路の影へ身を滑らせる。 正面の取引は見失ってもいい。今必要なのは、流れそのものだ。誰が指示し、誰が記録を改め、どの箱だけが別の印を付けられるのか。葉月は息を潜め、控え室へ続く扉の前で足を止めた。予定が変わったからこそ、別の入口が生まれる。彼女は手袋の内側で指を一度握り、そこにある小さな隙間へ静かに目を向けた。

4章 / 全10

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