エラベノベル堂

白衣の潜入捜査官

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6章 / 全10

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地下へ続く階段の先は、空気まで金属の味がした。ひなたは薄暗い保守通路を進み、壁に並ぶ配管と配線を目で追う。ここは工場の心臓部だった。搬入口のさらに奥、帳簿で隠されていた流れが、原料の保管槽と出荷制御盤へ一本につながっている。表の箱に詰められた資材は、別の経路で細かく振り分けられ、都市のあちこちへ散っていく。その痕跡が、偽装された出荷データの中にきれいすぎるほど揃っていた。 「やっぱり、ここか」 ひなたは小さく呟いた。単なる工場ではない。街の血管に似たネットワークの中心だ。彼女の背後で警報灯が赤く脈打つ。さっき黒幕が工場を切り捨てる決断を下した直後、内部の制御が手荒く切り替えられたのだろう。通路の向こうから、重い扉が閉まる音が連続して響く。逃げ道が次々と塞がれていく。 それでもひなたは足を止めなかった。奥の制御室に滑り込み、搬送装置の操作盤へ手を伸ばす。ここを暴走させれば、証拠の流れは外へ送れる。だが、その一方で自分は退路の薄い中心部に残ることになる。迷いはあった。けれど、今ここで引けば、全てが焼かれる。 彼女は呼吸を整え、能力を薄く広げた。怒り、焦り、疑念。人を急がせる感情を、糸のように集めて装置の判断を鈍らせる。警戒していた整備員たちが一瞬だけ視線を外し、その隙にひなたは送信手順を指で叩いた。画面の進捗が細く伸び、暗号化された証拠データが外部回線へ押し出されていく。 やがて搬送装置が異音を上げた。金属が軋み、ベルトが暴れ、封じ込められていた記録媒体が一斉に解放される。ひなたは装置の側面をかすめるように身を伏せ、飛び散る火花の中で最後の確認を終えた。送信は通った。あとは、誰かが受け取るまで持ちこたえるだけ。 しかし、次の瞬間、制御盤の一部が爆ぜたように弾け、通路の照明が落ちた。熱い風が頬を打ち、ひなたは片膝をつく。耳の奥で警報が遠くなる。敵の中心部に、ひとり取り残された。彼女はゆっくり立ち上がり、暗闇の向こうへ目を向ける。味方が来るまでの時間を、ここで稼ぐしかない。

6章 / 全10

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