エラベノベル堂

満員電車で刻印が滲む

18+ NSFW

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2章 / 全10

「あ……」 隣に立っていたサラリーマンが、ふらりと体を揺らした。天井から滴った粘液が、彼の頭髪にわずかに触れていたことにひなたは気づいていた。 「大丈夫ですか?」 思わず伸ばした手が、肩に触れた瞬間――ひなたは息を呑んだ。 サラリーマンの瞳から、光が消えていた。虚ろな眼窩が、ガラス玉のようにひなたを映し出している。まるで魂が抜け落ちた人形のような、圧倒的な 「無」 の表情。 「……うぁ」 呻き声とともに、サラリーマンの手がひなたの白衣を掴んだ。 「えっ……?」 困惑する間もなく、周囲で同様の現象が連鎖していく。粘液が髪に、肩に、腕にかかった乗客たちが、次々と瞳の光を失っていく。 「おい、どうしたんだ?」 「なんだこれ……頭が……」 不意に、車内のざわめきが止んだ。 数十人の乗客たちが、一斉に顔をひなたの方へ向けた。整然とした動き。まるで最初からそうするようにプログラムされていたかのように、無数の首がぎりぎりと音を立てて回転する。 「っ……!」 ひなたは本能的に後ずさろうとしたが、背中はすでに壁に押し付けられていた。逃げ場はない。 (これは……痴漢なんかじゃない) 彼女の脳裏に、魔法少女として戦ってきた記憶が走馬灯のように蘇る。魔性的な脅威。人々を操り、弄び、欲望のままに貪る 「彼ら」 の手口だ。 (こんな日常の中で、まさか……!) 白衣の下で、黒いスクール水着が熱を持った肌に張り付いているのがわかる。ひなたは密かに手を伸ばし、スクール水着の脇を強く引いた。肌に食い込む縁が、わずかに位置を直す。 (正体を悟られちゃいけない。でも、このままじゃ……) 「にぃ……いぃ……」 乗客の一人が、喉の奥から獣のような唸り声を漏らした。言葉にならない欲望の吐露。 狭い車内で、彼らが一歩、また一歩と間合いを詰めてくる。ひなたは壁に押し付けられたまま、白衣のポケットに忍ばせた小さなアーティファクトに指を這わせた。

2章 / 全10

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