エラベノベル堂

生贄女王

18+ NSFW

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2章 / 全10

自宅のドアを開けると、温かい湯気と共に香りが漂ってきた。 「お姉ちゃん、遅いよ。怪我したんですって?」 義理の妹の柚葉が駆け寄ってくる。十七歳になったばかりの彼女は、美咲の実母が再婚した相手の連れ子で、血の繋がらない二人は三年前から姉妹として暮らしていた。心配そうに見上げる琥珀色の瞳、濡れたばかりの髪からシャンプーの香りがする。 「どこも怪我してないよ。ちょっと転んだだけで」 「でも近所の人が言ってた。車に跳ねられたって……」 美咲は曖昧に微笑んでキッチンへ向かう。柚葉が夕食を作ってくれていたらしい。味噌汁の温かい匂いが空腹を刺激する。 「座ってて。お姉ちゃん、何か食べるもの作るから」 「えっ、私のこと……」 柚葉の肩に触れようとした瞬間だった。指先から熱い奔流が押し寄せてくる。それは感情と呼ぶにはあまりに生々しく、粘度を持った欲望だった。 『お姉ちゃんの肌、白いな。鎖骨のラインが綺麗。触れたらどうなるだろう』 美咲は手を引っ込める。妹の顔を見る。柚葉は何食わぬ顔で鍋を覗き込んでいた。だが美咲にはわかってしまった。この子が抱えている秘めた想いを。血の繋がらない姉へ向ける、背徳的な憧憬と渇望を。 「……お風呂、沸いてるから」 「うん、ありがとう」 逃げるようにバスルームへ向かい、美咲は冷たい水で顔を洗う。鏡の中の自分が誰だかわからない。あの子の心を読んだのか、それとも勝手に流入してきたのか。能力が強まっている。制御できなくなっている。 その夜、美咲は眠れずに朝を迎えた。柚葉は何事もなかったかけて普段通りに振る舞っている。あの感覚は本物だったのか、自分の妄想だったのか。確かめる術はない。 翌日、美咲は仕事を休んで近所のコンビニへ向かった。何か食べるものを買って、家でぼんやりしたかった。 「いらっしゃいませ」 昨日の店員だった。痩せた頬、凹んだ眼窩、無機質な微笑み。美咲はレジにのおにぎりとサラダを置く。 「……これと、あと温かいお茶を」 店員は無言で商品をスキャンし、袋に詰める。そして会計を済ませた美咲の手に、小さな紙片を握らせた。 「よかったらどうぞ。精神統化セミナー、開催されていますから」 チラシには『王家の予言書』という文字と、ゴシック調のイラストが印刷されていた。美咲は店員の顔を見上げる。 「なぜこれを……」 「あなたには見えているはずです。他人の内側にあるものが」 店員の瞳が奇妙な光を帯びる。美咲は背筋に冷たいものを感じながら、チラシを握りしめて店を出た。日常の表面に亀裂が入っている。これから何かが変わってしまう予感が、胸の奥で澱のように沈んでいった。

2章 / 全10

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