エラベノベル堂

生贄女王

18+ NSFW

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3章 / 全10

指定された場所は、駅から車で三十分ほど走った郊外の高級住宅街にあった。美咲はタクシーの窓から流れる景色を眺めながら、握りしめたチラシの端を指で擦る。 「ここでいいんですか?」 運転手が訝しげに尋ねる。目の前には漆黒の鉄門と、鬱蒼とした木々に囲まれた洋館が鎮座している。 「はい、ここで」 美咲は運賃を払い、車を降りた。十一月の冷気がコートの隙間から入り込む。門柱には『W・E・サロン』という金属プレートが埋め込まれていた。王家の予言書……精神統化セミナー……。どう考えても怪しい。それなのに足が勝手に動いてしまうのは、好奇心なのか、それともあの店員の瞳に魅入られたからなのか。 インターホンを押すと、カメラ越しに確認されることもなく、門が無機質な音を立てて開いた。 「いらっしゃいませ、美咲様」 玄関ホールに出迎えたのは、黒いスーツを着た中年女性だった。メイドのように見えるが、その立ち姿には露悪的な優雅さがある。 「こちらへ。皆様お待ちです」 案内されたのは広間だった。クリスタルのシャンデリア、深紅の絨毯、壁には無表情な肖像画が並んでいる。そして部屋の中央には、ソファにくつろぐ数人の男女がいた。全員が上質な服を纏い、美咲を見つめる視線には値踏みするような色が混じっている。 「彼女か。予言書に記された方は」 一人の男が立ち上がる。五十代ほどの恰幅の良い紳士だった。しかしその内側から流れ込んでくるのは、品位とは対極にある粘着質な欲望だった。 『若い。肌が白い。あの目、怯えているようでいて何かを渇望している』 美咲は思わず後退る。この屋敷の中、能力が以前よりも鋭敏になっている。壁の向こう、床の下、あらゆる場所から澱のような感情が染み出している気がした。 「初めまして、美咲さん」 背後から声がした。振り返ると、あのコンビニ店員が立っていた。しかしその姿は一変している。漆黒の法衣を纏い、胸元には銀色のペンタグラムが揺れていた。痩せた頬も凹んだ眼窩も変わらないが、その全身から発する圧倒的な存在感が、彼をただの店員ではないと告げている。 「私はこの教団の教祖を務めております。名は澪と呼んでください」 「……教団?」 『世界エロ教』。澪の唇が動かずとも、その名前が美咲の脳裏に響いた。 「あなたは特別な方だ。他人の感覚を共有し、増幅させる能力。それは王家の予言書に記された救世主の証」 澪が手を差し出す。その指先からは、抗いがたい引力が発せられていた。 「今宵、あなたを歓迎する儀式を行います。特別な衣装も用意してあります」 美咲は逃げようとした。柚葉が待つ家に帰らなければ。日常に戻らなければ。けれど足が動かない。澪の瞳に吸い込まれるように、彼女は一歩、また一歩と前に進んでいく。 「……断ることはできないのね」 「ええ。あなた自身がそれを望んでいるから」 澪が微笑む。その裏にある真意は読めない。ただ一つわかるのは、ここから先に進めば、二度と元の日常には戻れないということだった。

3章 / 全10

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