エラベノベル堂

背徳の夜へ

18+ NSFW

小説ID: cmnp79geb000l01lfkokg3nj8

2章 / 全10

美咲は翌日、何かに導かれるように街角の喫茶店を訪れた。夫との会話も、父からの電話も、全てが空虚に感じる中で、この店だけは不思議と心が落ち着く場所だった。 「いらっしゃい。いつもの席、空いてますよ」 カウンターの内側から声をかけたのは、この店のマスターである佐伯という男だった。四十代前半と思われる落ち着いた物腰、少し白いものが混じった髪、そして何より穏やかな眼差しが美咲を包み込む。 「……お願いします」 彼女は窓際の席に座り、ブレンドコーヒーを注文した。店には他に客がおらず、静かなジャズが流れている。 「最近、よく来るようになりましたね」 佐伯がコーヒーを置きながら、静かに切り出した。 「家に居場所がないからかしら」 美咲は自嘲気味に笑う。初対面の時から、なぜかこの男には本音を話してしまう。それが不思議だった。 「居場所がない……ですか」 佐伯は少し遠い目をして、それから真剣な表情を向けた。 「もしよろしければ、今夜、少し面白い場所にご案内しましょうか」 「面白い場所?」 「ええ。美咲さんのような方には、きっと合うはずです」 その夜、美咲は佐伯の車に乗っていた。街灯が流れる車窓の外、彼女は胸元の黒曜石を握りしめている。昨晩の感覚がまだ身体の中に残っていた。 「着きました」 車が停まったのは、都心から少し離れた場所に建つ古びた校舎だった。夜の闇に浮かぶその姿は、どこか懐かしく、同時に不穏な空気を纏っている。 「学校……?」 「正確には、学校を模した社交場です。大人たちが集う、秘密の場所」 佐伯は美咲の手を取り、校舎の中へと導いた。廊下の先から微かな話し声と、甘い香りが漂ってくる。 「ここでは、普段の社会的立場や役割から解放され、本来の自分を取り戻すことができる」 彼が開けた講堂のような部屋には、十数名の男女がいた。黒板のある教室風の空間に、ソファやテーブルが置かれ、どこか退廃的な雰囲気が漂っている。 「美咲さん、あなただけの特別席を用意しました」 佐伯は彼女の耳元で囁いた。その声が、背筋に甘い震えを走らせる。 「私は……何をすればいいの?」 「何も。ただ、感じるままに」 美咲は彼に促されるまま部屋の中央へと進んだ。黒曜石が掌の中で熱を帯び始める。感覚が研ぎ澄まされ、空気に含まれるフェロモンのようなものまで感じ取れそうになる。 「皆さん、今夜の特別なお客様です」 佐伯の言葉に、部屋にいたサラリーマン風の男たちが一斉に視線を向けてきた。彼女はその熱っぽい眼差しを受け止めながら、自分の内側で何かが目覚めようとしているのを感じていた。

2章 / 全10

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