エラベノベル堂

吹き出す本音、未来を変える

全年齢

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4章 / 全10

町へ出るには、まずバスに乗らなければならなかった。俺は帽子を深くかぶり、こけしを入れた木箱を抱えて、義理の妹と並んで停留所に立った。だが、切符を買う段になって早くも地獄だった。窓口の職員が住所確認を求めた瞬間、頭の中の声が先に飛び出す。 「実家に戻るの、正直かなり気まずい」 白い吹き出しは、俺の顔の横に堂々と浮かんだ。職員の目がわずかに丸くなる。妹が間に割って入り、淡々とした声で言った。 「この人、寝不足なんです。さっきから意味のないことばかり言うので、気にしないでください」 冷たい言い方だった。けれど、そのおかげで職員は妙に納得したらしく、深く突っ込まずに切符を出した。妹はそれを受け取ると、俺の腕を引いて足早に改札へ向かった。 「今の、助かったのか?」 「助かったふりをしただけ」 駅前の商店街でも同じだった。道具屋でマッサージ機に合う電池を探そうとしたが、店先に立つだけで吹き出しが暴れた。 「これ、どう見ても怪しいやつだろ」 「店の人に変な目で見られたくない」 「本当はもっとまともな大人でいたい」 最後の一文が出た途端、店主が俺を見て、微妙に哀れむような顔をした。妹はすかさず前へ出る。 「こういう人なんです。私が管理します」 その声は氷みたいに冷たかった。だが、店主はなぜか妹のほうを気にしはじめ、俺への関心を外した。妹はわざと鋭く見返し、必要以上に強い口調で値段を交渉する。注目は全部、自分の背中へ集まった。 店を出たあと、俺が礼を言おうとすると、妹は歩きながら小さく肩をすくめた。 「優しくしてたら、あんたが目立つでしょ。今はそれが一番まずい」 「でも、そんなに悪者みたいな態度を取らなくても」 「大丈夫。私は嫌われ慣れてる」 その一言に、胸が詰まった。吹き出しがまた浮かぶ。 「守られてばかりで悔しい」 妹はそれを見て、少しだけ目を細めた。 「その悔しさ、後で使いなさい。今は隠れること」 午後には、町の裏通りで小さな酒場に入ることになった。人目を避けるためだったが、ここでも失敗した。注文を聞かれた瞬間、俺の本音がまた漏れる。 「水でいいです。あと、できれば誰にも話しかけられたくないです」 店内の空気が一瞬止まる。だが妹が机を軽く叩き、笑っていない笑みを向けた。 「この人、今日は機嫌が悪いんです。私もです」 その堂々とした冷たさに、客たちはむしろ近寄らなくなった。俺はようやく息をつく。妹はカップの湯気越しに、窓の外を見た。 「追ってくる気配がある。だから、私が前に出る。あなたは一歩下がって」 「ずっと、俺のせいで」 「違う。狙われる理由があるのは、あんたの弱さじゃない」 その言葉は、意外なほどまっすぐだった。吹き出しが、ふっと揺れる。 「弱くても、逃げるだけじゃ終わらない」 俺はその文を見つめた。町のざわめきの中で、妹があえて冷たく振る舞っている理由が、やっと分かった気がした。彼女は俺の盾になるために、わざと刃を引き受けている。何も知らない顔で周囲の視線を集めながら、次の一手を探しているのだ。 そのとき、酒場の入口で黒いパーカーの男が立ち止まった。古い眼鏡の奥の目が、真っ直ぐこちらを捉える。俺が身構えるより早く、妹が立ち上がった。 「こっちを見るな。用があるなら私に言って」 冷たい声だった。だがその瞬間、男はなぜか笑った。俺の吹き出しは、まだ消えない。けれど、その文字の中に、今までなかった小さな熱が混じっているのを、俺は確かに見た。

4章 / 全10

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