エラベノベル堂

深夜ラジオの予言

全年齢

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2章 / 全10

朝になっても、昨夜の音は耳の奥に残っていた。雑音の隙間から、確かに僕だけを狙っているような呼びかけがあった気がして、目を覚ました瞬間から喉が乾いていた。洗面台で顔を洗っても、手首の内側に走ったあの熱は消えない。鏡の中の自分はいつも通りのはずなのに、どこか一枚、皮膚の下に別の表情を隠しているようだった。 朝食の席で、義理の妹は何度か僕の顔を見た。何も聞かれないのが逆に落ち着かなくて、僕は牛乳を飲むふりをして視線を落とした。すると、台所に置かれた古い受信機が、誰も触れていないのに小さく唸った。電源は切っていたはずだ。僕が手を伸ばす前に、かすかな声が漏れる。 「扉の向こうで、まだ名前が呼ばれている」 それは放送というより、息を吹きかけられたみたいに近かった。 「今、聞こえた?」 妹の声が低くなる。僕は反射的に首を振ったが、遅かった。彼女は怖がるというより、確かめるような目をしていた。 「最近、変だよ。寝不足だけじゃない」 「平気だよ」 自分でも薄っぺらい返事だと思った。彼女はそれ以上追及せず、ただ湯飲みを僕の前へ押しやった。 「なら、せめて顔色だけでも戻して。学校で倒れられたら困る」 その言葉に、少しだけ救われた。 学校へ行くと、空気は昨日までと同じ顔をして、同じように僕を避けた。だが廊下の向こうで、部活のキャプテンが人の流れを止めていた。背が高いわけでも、特別大声なわけでもないのに、彼の周囲だけが妙に静かになる。笑っているはずの後輩たちまで、息をひそめているように見えた。誰かが彼を裏世界の帝王だと囁いていたのを思い出し、僕はくだらない噂だと切り捨てようとして、やめた。 彼の視線が一瞬、こちらへ向いた気がした。遠く離れているのに、目の奥を見透かされたようで、背中が冷たくなる。すぐに彼は笑った。優しそうで、何も考えていないふりをした笑みだった。そのくせ、足元には見えない何かが広がっているような、不気味な余裕があった。 昼休み、図書室で逃げるように本棚へ向かうと、背表紙の隙間に一冊だけ、妙に古い本が挟まっていた。表紙には擦れた紋章、手に取ると紙が砂のように崩れそうなほど脆い。ぱらりと開いたページの端に、走り書きのような文字があった。 王家に伝わる予言書は、ひとりの少年が扉を開くと記す。 僕は息を止めた。続きは欠けていたが、それだけで十分だった。夜の放送、体の奥で目覚める何か、そして見知らぬ力。偶然のはずがない。ページの余白には、さらに薄くこうあった。 選ばれし者は、災いではなく、災いを選び直す。 指先が震えた。僕は本を閉じることもできず、ただその言葉を見つめた。誰かに見つかれば、きっとただのいたずらだと笑われるだろう。けれど、胸の奥で鳴り続けるあの声だけは、最初からこの一文を知っていた気がした。僕は知らないうちに、もう物語の外側にはいられなくなっていた。

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