エラベノベル堂

深夜ラジオの予言

全年齢

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3章 / 全10

放課後、僕と義理の妹は、町の中央にある古い資料館へ向かった。駅前の喧騒から少し外れるだけで、空気はひどく薄くなる。石造りの建物は雨を吸ったみたいに暗く、入り口の上では色あせた紋章が風に鳴っていた。彼女は扉を見上げ、肩をすくめる。 「ここなら、少しは調べられそうだね」 「そんな顔で言わないでくれ」 「だって、気味が悪いのは事実でしょ」 妙に落ち着いた声に、僕は苦笑した。こういう時の彼女は強い。僕が怯えている分まで、先に歩いてくれる。 受付の年配の司書は、僕らの名目を聞くと、町史の閲覧席へ案内してくれた。埃をかぶった棚の奥には、古い地図や寄贈品が眠っている。僕たちは予言書に関わりそうな言葉を片端から探した。王家、封印具、扉、制御。紙をめくるたび、乾いた匂いが指に残る。 やがて、ある古文書の写しが見つかった。そこには、王家に伝わる封印具は力を封じる刃ではなく、暴れ出すものを鎮めるための輪だと記されていた。持つ者を選ぶのではなく、選ばれた者の中で暴れ続ける何かを、壊さずに留めるための道具。僕はその一文を見た瞬間、手首の奥が微かに熱を帯びるのを感じた。 「これ、ただの武器じゃない」 妹が小さく言った。彼女もまた、文字の意味を飲み込みかねている顔だった。 「制御するためのものなんだ。僕の……この変な力も」 言いながら、喉の奥が渇く。予言書は災いを呼ぶのではなく、扱い方を示しているのかもしれない。そう考えた途端、世界の見え方が少しだけ変わった。 だが、その安堵は長く続かなかった。閲覧室の窓に映った反射の中で、僕は見慣れた制服の影を見た。振り返ると誰もいない。それでも、背後の棚の隙間や、階段の踊り場に、こちらを見張る気配がいくつも潜んでいるのがわかる。 「見られてる」 妹が囁いた。僕たちは同時に息を止めた。 資料館の外にも、校章の色をした同級生たちが三人、いや四人、何気ないふりで行き来している。誰かを待つ歩き方ではない。目線だけが不自然に揃っていた。 「学校の外まで来てる」 僕は窓際へ近づかず、棚の陰から様子を見た。彼らは笑い合うこともなく、通り過ぎる車にも驚かない。ただ一定の間隔で立ち位置を変え、建物の出入り口を囲むように移動していく。まるで時計の針みたいに、決められた動きしかしていない。 「普通じゃない」 妹の声が低くなる。 そのとき、ひとりの同級生がふっと立ち止まり、何もない空間に向かって薬瓶のような小さなものを傾けた。透明な液体が光を弾いた気がした次の瞬間、資料館の入口で立ち話をしていた老夫婦が、互いに顔を見合わせて首を傾げる。ほんの一瞬、ふたりの記憶がほどけたみたいに表情が揺れた。 僕は背筋が冷たくなった。時間を止める力だけじゃない。人の輪郭まで曇らせる何かが、もう町のあちこちに染み出している。 妹が僕の袖をつかむ。 「帰ろう。ここ、長くいるとまずい」 僕は頷いた。けれど振り返る直前、窓の外の校章の群れの中に、あのキャプテンの笑みに似た影を見た気がした。見間違いであってほしいと思ったのに、胸の奥の扉は、確かに次の段階へ開き始めていた。

3章 / 全10

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