エラベノベル堂

深夜ラジオの予言

全年齢

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4章 / 全10

夜更けのラジオは、いつもより少しだけざらついて聞こえた。雑音の底から、あの声がまた僕を呼ぶ。眠りの縁をなぞるみたいに、ゆっくり、しかし逃げ道を塞ぐように。 「封印具は、ひとつではない。壊すための輪と、留めるための鍵。どちらも、選ばれた者の手でしか開かない」 息を呑んだ。机の上に置いた古い受信機が、微かに振動している。まるで中に小さな心臓でもあるみたいだった。僕は周囲を確かめ、カーテンの隙間に見える夜の黒を睨む。選ばれた者。その言葉が、嬉しいより先に恐ろしく胸へ落ちた。 翌朝、僕はいつも通りの顔を作ろうとした。だが義理の妹は、食卓に座った瞬間から僕の変化を見抜いていたらしい。 「また、ひとりで抱え込んでる」 「そんなことない」 「あるよ。目が逃げてる」 箸が止まる。彼女は怒っているのではなく、僕が自分を責めていることに腹を立てている顔だった。 「力があるのが怖いんでしょ。使ってしまったら、もう戻れないって思ってる」 何も言えなかった。否定しようとすると、手首の奥が熱くなる。あの夜からずっと、僕はこの感覚を化け物じみたものとして遠ざけてきた。誰かを傷つけるかもしれない、取り返しがつかないかもしれない。そう思うたび、力はますます自分のものではないように思えた。 彼女は湯気の立つ味噌汁の器を僕の前へ押しやった。 「逃げないで。怖いなら、怖いまま見ればいい。ひとりで勝手に決めないで」 その言葉が、胸の奥の硬い殻を少しだけ叩いた。 放課後、僕らは再び資料館へ戻った。昨日見つけた古文書の写しを手掛かりに、封印具の保管場所を探すためだった。棚の奥、崩れかけた町史の束の中から、妹が薄い地図を引き抜く。そこには、今は使われていない旧水路の下に、王家の蔵があったと記されていた。 「ここだね」 彼女が指先で示した場所の近くに、例のキャプテンの名が記された寄付欄があった。表向きは部活の実績しかないはずの彼が、資料館の維持にも影響を持っている。噂が、ただの噂では済まなくなってきている証拠だった。 帰り道、校舎の裏手で、同級生たちが輪になっていた。誰も声を上げない。けれど全員の視線が同じ一点に吸い寄せられている。中央に立つキャプテンは、夕暮れを背負ってなお不気味なくらい穏やかだった。 「そろそろ、町も目を覚ます」 低い声が風に混じる。隣にいた一人が、いつの間にか小瓶を握っていた。中の液体は淡く光り、見ているだけで記憶の端が濡れていくような嫌な気配がした。 僕は足を止めた。彼らの周囲だけ、時間の流れが薄く歪んでいる気がする。妹が小さく息を呑む。 「もう始まってる……」 キャプテンはこちらを見た。笑っているのに、目だけは何も笑っていない。 その瞬間、ラジオの声が耳の奥で重なった。 「扉の向こうへ行く前に、まずは自分を信じろ」 僕はまだ怖かった。それでも、逃げ続けるだけでは終わらないと知ってしまった。

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