エラベノベル堂

深夜ラジオの予言

全年齢

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8章 / 全10

地下の広間は、時間が止まっているというより、息をするたびに世界がきしむような場所だった。天井近くで回る装置が低く唸り、床に並べられた配管の影が、巨大な歯車みたいに壁を削っていた。キャプテンはその中心で、赤い糸で閉じられた予言書を掲げている。 「書かれていたのは救済じゃない。破滅を早めるための手順だ。こうして装置を動かせば、世界は自分で自分を壊し始める」 冷たい声だった。けれど、その言葉の端には焦りが滲んでいた。彼は本当の意味を理解していない。ただ、都合のいい部分だけを拾い集めて、終わりを急いでいる。 そのとき、妹が僕の横で小さく息を呑んだ。彼女の周囲にいた、時間を止められたはずの同級生たちの目が、少しずつ揺らいでいる。虚ろな膜が薄く剥がれ、誰かが瞬きをした。 「……戻ってきてる」 僕は手の中の封印具を握り直した。あの祠で感じた静けさを思い出す。抑え込むのではなく、巡らせる。止められた流れの継ぎ目に、呼吸を通す。 だが、装置の振動はさらに強まり、広間の空気が凍りつく。そこで僕は、ふいにラジオの雑音を思い出した。深夜の受信機が拾っていた、周波数のずれた声。そのずれこそが、今目の前で押し固められた時間を裂く鍵になるのではないか。 僕は胸元から受信機を引き出し、封印具の輪へ近づけた。妹が目を見開く。 「それ、どうするつもり」 「聞こえるはずのない音を、重ねる」 受信機のつまみを少しずつ回す。砂嵐のような雑音が高まり、ある瞬間、低い声が輪郭を持った。扉の向こうで、自分の名を呼ばれたことがある人へ。内側から開け。 封印具が熱を帯びる。ラジオの周波数と重なった振動が、時間停止の膜に細いひびを入れた。凍りついていた空気に、見えない風穴が開く。止まっていた椅子が軋み、落ちたコップが床で跳ねた。 「馬鹿な……」 キャプテンの声が初めて乱れた。彼は装置へ駆け寄り、さらなる出力を注ぎ込もうとする。けれど、ひびはもう広がっている。僕の周囲で、同級生たちが一人、また一人と正気を取り戻し始めた。 「何をしてたんだ、俺……」 「頭が、ずっと重かった」 混乱した声が次々に上がる。誰かが床に膝をつき、誰かが妹の名を呼んだ。孤立していたはずの僕の周りに、少しずつ人の輪ができる。目を逸らしていた者たちが、今は僕と同じ方向を見ていた。 妹が僕の隣に立つ。 「ひとりじゃないよ」 その一言で、胸の奥の恐怖が、完全には消えないまま形を変えた。僕は封印具を掲げ、ラジオの雑音を通して流れ込む力を受け止める。止める側の支配を、ずれた周波数が押し返していく。 キャプテンは叫び、広間の装置は悲鳴のような音を上げた。だが、もう遅い。止まっていた時間の中に、僕たちの呼吸が戻っていく。見えない扉は、今度は世界の外ではなく、ここにいる全員の中で開き始めていた。

8章 / 全10

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