エラベノベル堂

深夜ラジオの予言

全年齢

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9章 / 全10

夜明け前の町は、まだ息をしていないみたいだった。旧水路の入口に立つと、湿った石の匂いの奥から、かすかな雑音が聞こえる。耳を澄ますまでもない。あれはもう、ラジオの音ではなく、こちらを待っていた音だ。 僕は受信機を胸に押し当て、錆びた階段を降りた。誰もいないはずの通路の先で、赤いランプが点滅している。辿り着いた先は、地下のさらに奥に隠された小さな制御室だった。壁一面に配線が走り、中央には古い送信機が据えられている。そこに刻まれた紋章を見た瞬間、背中が冷えた。資料館で見た王家の印と同じだった。 「やっと来たね」 背後から聞こえた声に、振り返ると、キャプテンが立っていた。制服姿のままなのに、そこだけ別の王宮みたいに見える。彼の周囲には、時を止める能力者たちが整列していた。静かすぎる目。けれど、その静けさは勝利のものではなく、壊れる直前の硬さだった。 「ここが放送の発信源だ」 彼は壁の機械を叩いた。 「昔の誰かが残した救済の仕掛けだよ。だが、救いなんてものは支配の邪魔にしかならない。だから壊す。壊して、終わりを俺のものにする」 僕は笑えなかった。胸の奥で、あの夜から続いてきた雑音が、今ははっきりと人の声に変わっている。過去から未来へ残されたもの。眠れない誰かへ向けた放送ではなく、運命を選び直すための合図。僕が耳を傾け続けてきたのは、導きでも呪いでもなく、誰かが消えないように残した手紙だった。 「勝った先に世界が壊れるなら、それは勝ちじゃない」 言葉にすると、震えていた肩が少しだけ軽くなった。 キャプテンは薄く笑った。 「なら、お前は何を選ぶ」 その問いに、妹の顔が浮かんだ。祠で封印具を渡したとき、彼女は目を逸らさずに言ったのだ。どんな終わりでもひとりで背負うな、と。危険でも、失っても、逃げずに戻ってこい、と。あの約束が、今の僕をここまで連れてきた。 「壊れた未来を前提にした勝利は、いらない」 僕は受信機のつまみを回した。雑音が高まり、送信機のランプが激しく瞬く。輪の封印具が熱を帯び、胸の奥の力も応える。暴れ出そうとする流れを押さえつけるんじゃない。言葉の形にして、呼吸に乗せて、世界へ返す。 その瞬間、妹が隠れていた配管の陰から飛び出した。彼女は小さく頷き、制御室の奥にある手動弁へ走る。危ないと叫ぶより早く、彼女は封印具の鍵を差し込んだ。重い歯車が軋み、閉ざされていた回路がひとつずつ開いていく。 「今なら、止められる」 僕は自分に言い聞かせるように呟いた。過去の放送が、未来の誰かを救うために残した仕掛け。その最後の受け手が僕なら、答えを返すしかない。 送信機の光が白く弾け、地下全体が揺れた。キャプテンの顔から余裕が消える。けれど、もう遅い。破滅を選ぶための機械は、救済の周波数に呑まれ始めていた。

9章 / 全10

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