エラベノベル堂

二つの心を束ねて

全年齢

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6章 / 全10

健太は銀色のケースを開いた瞬間、息を止めた。中に収まっていた拘束具は、鎖でも手錠でもない。細い輪と薄い板が幾重にも噛み合い、表面には古い文字列のような筋が走っていた。しかも、その筋はただの装飾ではなかった。女が明かりを寄せると、重なった線が図になり、封を閉じる向きと、逆に緩める向きが同時に浮かび上がる。 「設計図です」 低く告げたのは、古参の男だった。誰にも渡さず隠されていたはずの品を、どうして今になって出したのか。男は目を伏せ、しばらく沈黙してから続けた。 「これは縛るためだけの道具じゃない。暴れた力を受け止めるための器であり、必要なら外へ逃がすための逃がし弁でもある」 健太は喉の奥がひりつくのを感じた。支配の象徴だと思っていたものが、救命具に近いと知ったからだ。けれど、それが分かってもなお、組の中にこの仕組みを悪用した者がいるなら話は別だった。 誰を敵にすべきか。誰を守るべきか。健太はその場で初めて、怒りが自分の感情ではなく、何かを守ろうとする意志に変わっていくのを感じた。 同じころ、真鍋は祠の前で断片を掲げていた。石段の隙間から吹く風が、細い笛のように鳴る。断片に刻まれた筋は、健太の持つ拘束具の図と、奇妙なほど呼応していた。封印を守るだけでは足りない。閉じ込めたままでは、いつか中のものが壊れる。だが解放すれば、流れは一気に崩れる。 「守るって、何だ」 真鍋は誰に向けるでもなく呟いた。答えは簡単ではない。けれど今は、壊すべき相手を間違えないことのほうが先だった。 健太の前に、例の女が資料を一枚差し出した。裏社会の帳簿の抜け穴、催眠の一派との接点、消された名簿。その中心に、見慣れた名前があった。味方だと思っていた古参の一人が、外から流れ込んだ資金と情報を使い、組そのものを乗っ取ろうとしていたのだ。 健太は資料を握りつぶしそうになった。憎むべき相手は、ただの外敵ではない。自分のすぐそばで、秩序を食い荒らしていた。 そのとき、頭の奥であの声がした。 やっと見えたな 静かで、冷たく、だが確信に満ちた声だった。 健太は目を閉じた。追うべき敵は、思っていたより近い。守るべきものは、思っていたより多い。紗耶香、組の名も知らぬ者たち、そして真鍋が背負う世界の均衡。全部を一度に抱えるには、表の自分だけでは足りない。 だが今はもう、逃げない。 「行くぞ」 健太がそう言うと、部屋の空気がわずかに変わった。誰かが頷き、誰かが息を呑む。そこで初めて、彼は理解した。敵を見直すことは、守るものを見直すことでもある。拘束具の仕組みが示していたのは、誰かを閉じ込めるための理屈ではなく、壊れそうな世界を保つための知恵だったのだ。

6章 / 全10

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