エラベノベル堂

二つの心を束ねて

全年齢

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7章 / 全10

眠りに落ちたはずの健太は、薄い水の底に沈むような感覚の中で目を開けた。そこは部屋ではない。真っ暗な廊下の奥に、ぼんやりと灯りが揺れている。足音もないのに、誰かが先へ進んでいた。いや、進んでいるのは自分だと、健太は遅れて気づいた。 お前、また怖気づくのか 耳の奥で、あの声が笑った。表にいる自分より、ずっと背筋の通った声だった。 「怖いに決まってるだろ」 口にしたのは健太なのに、返答を待たずに身体が動く。扉を開ける。そこには会議室で見た古参の男が座っていた。男は驚いた顔をしたが、次の瞬間には視線を逸らした。健太はためらわない。机に置かれた名簿、抜け穴だらけの帳簿、催眠の一派との接点を示す控え。表の自分なら一つずつ確認していたはずのものを、もう一人の自分は一息で拾い上げる。 「隠すなら、隠し方が甘い」 静かな声だった。だが部屋の空気は一気に凍った。男は言葉を失い、奥で控えていた若い者たちが息を呑む。健太はその反応を見て、初めて理解した。自分が失っていたのは勇気ではない。脅しに屈しないための、最初の一歩だったのだ。 真鍋からも連絡が入る。祠の前で、断片が熱を帯びているという。封印を守る者と、壊そうとする者が、同じ場所へ向かっているらしい。健太は携帯を握りしめたまま、眠っているはずの身体の中で、もう一人の自分が静かに息を整えるのを感じた。 「お前は何がしたい」 心の内で問うと、返ってきたのは意外なほど淡白な答えだった。 守る。必要なら、切り捨てる。お前が言えないことを、代わりにやる 胸の奥がざわつく。暴走した化け物ではない。だが、ただ優しいだけの存在でもない。健太は気づく。こいつは、自分が人に嫌われるのを恐れて捨ててきた、防衛本能そのものだ。言い返せず、踏み込めず、笑ってごまかしてきた裏側で、ずっと牙を隠していた何か。 「なら、今は一緒だ」 健太がそう言うと、部屋にいた男が顔色を変えた。表の健太では出せない圧が、ほんの少しだけ滲んだのだろう。男はついに口を割った。古参の一人が、組の秩序を売っていた。さらに、拘束具は支配の道具ではなく、暴走する力を閉じるための保護装置であり、同時に解放の鍵でもあると。 祠へ向かう車中、真鍋からの映像が届く。揺れる断片の向こうで、彼もまた迷っていた。壊せば救えるものがある。だが、壊した先に残るものは何だ。健太は画面を見つめ、自分の中の冷たい静けさに頷いた。 表の自分は怖がっている。けれど、怖がる自分がいるからこそ、前へ出る自分もいる。健太は初めて、その二つを敵だと思わなかった。窓の外を流れる夜景は、もう別のものに見えた。

7章 / 全10

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