朝霧が立ち込めるキャンプ場で、蓮は焚き火の残り火を突き崩していた。昨夜の奇妙な夢の余韻がまだ体に残っている。だるさと火照りが混ざったような感覚だ。 「おい、あんた」 背後から声がして、蓮は振り返った。黒いスーツを着た男たちが三人、こちらへ歩いてくる。キャンプ場には似つかわしくない格好だ。 「なんですか」 「見せたいものがある。こっちへ来てもらおうか」 男の目が不気味に光った気がした。蓮は反射的に後ずさる。 「いえ、結構です」 「拒否できると思ってるのか?」 男が指を鳴らすと、蓮の視界が歪んだ。空間そのものが波打ち、意識がぐらつく。 「なっ……」 「効かねえだと? こいつ、催眠耐性があるぞ」 男たちの表情が変わる。警戒心と、それ以上に貪欲な関心が混じった顔つき。 「おい、ボスに報告しろ。『覚醒体』の反応だ」 「マジかよ……こんな山奥で見つかるなんて」 蓮は状況を理解できずに立ち尽くしていた。男たちが素早く周囲を囲む。 「悪いな。あんたには来てもらう」 強烈な衝撃が後頭部を襲い、意識が暗転した。 気がつくと、蓮はキャンピングカーの内部にいた。汚れた内装、窓は黒いカーテンで覆われている。両手首には冷たい金属の輪がはめられ、背後のパイプに固定されていた。 「起きたか」 目の前に髭面の男が座っている。鋭い視線で蓮を値踏みするように見ている。 「お前、自分の体質に気づいてたか?」 「……何の話だ」 「とぼけるな。昨夜、このキャンプ場で数人のハイカーが発情状態になった。原因はお前だ」 蓮は言葉を失った。昨夜の夢――あれは現実だったのか。 「あんたの体から出てるフェロモン、普通じゃねえ。催眠術を使わなくても人を魅了できる特異体質だ。うちの組織にとっては垂涎(すいぜん)のサンプルってわけだ」 男が蓮に顔を近づけてくる。粗い呼吸が肌にかかる。 「最初は検査だけのつもりだったんだが……」 男の喉仏が上下した。目が熱っぽく潤んでいる。 「近くにいすぎると、俺まで効いてきちまうな……」 男の手が蓮の太ももに触れた。熱い掌がゆっくりと内側へ滑り込んでくる。 「やめろ……」 「わかってねえな。お前は今、俺たちの『商品』なんだよ」 蓮の抗議を無視して、男はさらに体を密着させる。甘い痺れが蓮の全身に広がり、頭の中が白濁していく。自分の意思とは無関係に、体の芯が熱く疼き始めた。 「くっ……」 「感じてんだろ。お前自身も、他人を魅了するって興奮してるんじゃねえか」 男の唇が耳元に触れ、湿った舌が首筋を這う。蓮は拘束されたまま、抗えない快楽の波に飲み込まれようとしていた。 「今日からお前は、俺たちの玩具(おもちゃ)だ……」 キャンピングカーの中に、男の低い笑い声と蓮の抑えた吐息が混じり合う。狭い空間に濃厚なフェロモンが充満し、状況はさらに異常な方向へと進んでいく。 その時、外から仲間の声がした。 「おい、いつまで経ってるんだ。ボスが待機してるぞ」 男は舌打ちをして、名残惜しそうに離れた。 「……続きはまた今度だ」 蓮は力なく項垂れるしかなかった。だが、彼自身も気づかぬうちに、体の奥底で眠っていた 「何か」 がじわじわと頭をもたげ始めていたことを、まだ知らない。
二つの心を束ねて
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