「おや、もう十分でしょう」 しわがれた声と共に、コンパートメントのドアが内側から開かれた。老人・健太郎がずかずかと部屋に踏み込んでくる。サラリーマンたちはペンライトを懐にしまい込み、深々と頭を下げた。 「ご主人様、準備は整いました」 「ご苦労。下がっていなさい」 美香は薄く開いたまぶたの隙間から、信じられない光景を眺めていた。あの男たちがこの老人に従っていたのだ。健太郎はベッドの端に腰を下ろし、満足げに美香の肢体を見下ろす。 「やっと二人きりになれたね、美香さん」 「あなた……最初から……」 美香は絞り出すような声で問いかけた。健太郎は皺だらけの手を美香の頬に這わせ、亜麻色の髪を指で梳く。 「説明してあげましょう。私は未来から来た、あなたの子孫です。もっとも、今の時間軸ではまだ結婚もしていないから、正確には可能性の子孫と言うべきかな」 「子孫……?」 「そう。未来の歴史では、あなたは別の男と結婚し、私という存在は生まれません。私はその歴史に不満を持ったのです」 健太郎の指が首筋を滑り降り、鎖骨の窪みをなぞる。その指先は驚くほど熱を帯びていた。 「未来であなたを独占するため、私は歴史を改変しに来た。あの男たちを使って、あなたを私だけのものに開発させるためにな」 「そんな……狂ってる……」 「狂っているでしょうか。私はただ、愛する先祖を未来へ連れて行きたいだけです」 健太郎は上着のボタンを外し、皺の寄った胸を露わにした。そして美香の体を引き寄せ、乾いた唇を首筋に押し当てる。 「さあ、抵抗しない。催眠術の効果はまだ残っているはずだ」 美香の体には確かに力が入らなかった。しかし、心の奥底で冷たい炎が燃え上がるのを感じていた。この老人は自分を道具として見ているだけではない。歪んだ執着、狂気じみた愛着が、その濁った瞳の奥に宿っていた。 「いい子だ。未来では私があなたの全てになる」 健太郎の手が腹を滑り、秘所へと伸びる。美香は身をよじって逃れようとしたが、手足は鉛のように重く、指先一つ動かせない。老人の唇が耳元に寄せられ、熱い吐息と共に囁いた。 「今夜は長い夜になるよ。ゆっくり教え込もう、私があなたの運命だということを」
寝台列車、血の刻印
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