エラベノベル堂

激辛カレーと予知の先輩

全年齢

小説ID: cmnscu3az000o01qaapfjrw17

2章 / 全10

翌日の午後、私は約束された交差点に立っていた。信号が青に変わるたび、人の流れが途切れずに押し寄せる。逃げ道はいくらでもあるのに、足だけが妙に重かった。昨夜の通知は夢ではない。そう確かめるようにスマホを握り直した瞬間、背後から懐かしい声がした。 「来たんだね」 振り向くと、先輩がいた。会社で見かけるときと同じ、整った身なりと、少しだけ人を安心させる笑み。そのはずなのに、今日はなぜか輪郭がはっきり見える。周囲の騒がしさから、そこだけ切り取られたみたいだった。 「驚いた?」 「驚きました。あの、どうして私の番号を」 「番号だけじゃないよ。君は昨日、森で戻るべき場所を見失った」 私は息をのんだ。言い当てられたのは偶然ではない。先輩は私の反応を確かめるように、ほんの少し首を傾げた。 「怖い?」 「……少し」 「じゃあ、半分は正解だ」 笑っているのに、目だけは笑っていない。そのくせ声はやけにやわらかくて、断りきれない距離で近づいてくる。 「君には、選ぶ癖がある。危ない場面でも、逃げるより先に相手を見る。だから見つかる」 「見つかるって、誰に」 「いろいろな人に。面倒な人たちに」 先輩はそう言って、近くのカフェを顎で示した。人目のある場所に誘うのが逆に不自然で、私はますます落ち着かなくなる。だが断る前に、先輩は小さく続けた。 「心配しなくていい。今日はお茶を飲むだけ。君がどんな顔で話を聞くのか、確認したいだけだから」 「確認って、何を」 「未来だよ」 その一言が、背筋を静かに撫でた。未来なんて、誰にでも曖昧にしか見えないはずだ。けれど先輩は、私が次に何を言うかさえ知っているような顔をしている。 「たとえば君は、誰かに頼られると断れない。でも本当に断れないのは、頼られることじゃない。自分が必要とされたときの顔を、見られるのが苦手なんだ」 私は言葉を失った。そんなこと、誰にも話した覚えはない。先輩は満足したように微笑み、歩き出す。 「来て。怖がってもいいけど、置いていかれるのは嫌でしょう」 その背中を追いかけながら、私は気づいてしまう。これは偶然の再会なんかじゃない。私はもう、先輩に見極められている。そして、その視線の先には、私自身も知らない私の未来があるのだ。

2章 / 全10

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