霧島の車の中で、海奈はまだ震えていた。エアコンの風が頬を撫でるが、心の冷えは消えない。 「あの……さっきの人たち、何だったんですか?」 霧島は静かにハンドルを握りながら答えた。 「彼らは『神代の一族』を探していた」 「神代?」 「君の家系だ。君自身は知らないかもしれないが、君の血筋には特別な力が眠っている。彼らはそれを崇めているんだ」 海奈は眉をひそめた。特別な力なんて、自分には何もない。元AV女優として生きてきた人生。カメラの前で嬌態を晒し、見知らぬ男たちの欲望を受け入れてきた。そんな自分に、神聖な血筋などあるはずがない。 「そんなの、信じられません。私はただの……」 「ただの何だ?」 霧島の視線が、バックミラー越しに彼女を捉えた。 「……何でもないです」 海奈は窓の外に視線を逸らした。夕陽が海を茜色に染めている。 「君は自分を貶める癖があるな」 「えっ?」 「過去は過去だ。君が誰であろうと、神代の血は変わらない」 霧島の言葉に、海奈は胸が締め付けられた。誰もそんな風に言ってくれたことはなかった。 「とにかく、君はしばらく私のところで保護する。彼らは簡単には諦めない」 「でも、先生の家に……迷惑です」 「迷惑じゃない。それに、君が無事でいることが重要なんだ」 霧島の声には不思議な重みがあった。車は山道を登り、やがて古い日本家屋の前に停まった。 「ここが私の家だ」 霧島は海奈を招き入れた。縁側から見える庭には、古びた燈籠が佇んでいる。 「立派な家ですね」 「古いだけだ。一人で住むには広すぎる」 霧島は苦笑した。 「お茶、淹れるね。リビングで待っていて」 霧島が奥へと消えると、海奈は一人、畳の上に座り込んだ。ふと、部屋の隅に古びた巻物が目に入った。何気なく手に取ると、そこには見たこともない文字が並んでいた。しかし不思議と、意味が分かるような気がした。『鍵を持つ者、世界を繋ぐ』 「……これ、何?」 背後から気配がして、海奈は振り返った。霧島が茶盆を持って立っていた。その表情は、先ほどまでの穏やかさとは違っていた。 「それは君にはまだ早い」 霧島は巻物を海奈から取り上げた。 「先生、これ……」 「いずれ教える。今はまだ、その時じゃない」 霧島の瞳の奥で、何かが揺らいでいた。彼が隠し続ける『鍵』の秘密——世界を滅ぼす力を継承した者としての、彼の重い真実を、海奈はまだ知らない。
南国の鍵、淫らな支配
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