エラベノベル堂

規格外の先生

全年齢

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3章 / 全10

訓練場の床に、朝の光が斜めに落ちていた。昨日までならそれだけで気が抜けたはずなのに、今はその明るささえ試されているように感じる。黒いコートの男は腕を組み、集まった対策委員会の顔を順に見た。 「今日は役割を変える」 千尋が目を瞬く。 「変える、とは」 「前衛、支援、回収。固定しすぎている。お前たちは今、自分の得意な場所に逃げているだけだ」 刺さる言い方だった。沙耶が反発しかけたが、男は先に言った。 「文句があるなら、代わりに実績を出せ。十秒で配置を決めろ」 ざわりと空気が揺れた。実戦より先に、役割分担を見直すことになるとは思っていなかった。千尋が指示を出そうとしたそのとき、いつもなら後ろで控えめにしている彩乃が、静かに一歩前へ出た。 「私、記録係ですけど……遮蔽物の位置、昨日の訓練で見ました。入口側は視線が通りやすいので、回収班を置くなら、先に右の棚を動かした方がいいです」 誰もが彼女を見た。声は小さいのに、迷いがない。男が短く鼻で笑う。 「ようやく見えたか」 彩乃は頬を赤くしながらも、続けた。 「あと、梓さんは前に出るより、退路の確保が向いてます。沙耶さんは焦ると突っ込みますけど、逆に言えば判断は速いです。私が後ろで数を見れば、崩れたときにすぐ直せます」 梓は言い返しかけて、途中で口を閉じた。沙耶も舌打ちを飲み込む。否定したいのに、妙に的を射ていた。 「……なるほど」 千尋が息をつく。 「私たち、前に出る人ばかり見て、後ろを誰が支えるかを考えていなかった」 男はそれ以上褒めなかった。ただ、配置を書き換えさせる。彩乃の提案を軸に班を組み直し、苦手な者同士を無理に離さず、互いの穴を埋める形へ変えさせた。最初は戸惑いだらけだったが、動き出すと不思議なほど噛み合った。声を張る者、合図を拾う者、迷いを数える者。どれも欠けてはならないと、初めて実感できた。 模擬演習が終わるころ、千尋は額の汗を拭いながら言った。 「彩乃、ありがとう。助かった」 彩乃は驚いた顔をして、それから小さく笑った。 「私、役に立てるんですね」 その言葉に、場が一瞬だけ静かになる。男は訓練用の旗を肩に担ぎ、窓の外へ視線を向けた。 「役に立つかどうかじゃない。使える場所を知らなかっただけだ」 その瞬間、遠くで警報が短く鳴った。誰もが顔を上げる。だが男は急がず、扉へ歩きながら低く言った。 「今の配置で、次は実戦だ。壊れる前に、守り方を覚えろ」 千尋はその背中を見送って、妙な胸騒ぎを覚えた。守り方を学んだはずなのに、なぜか別の何かが静かに動き始めた気がした。彩乃だけが、その音に気づいていた。

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