エラベノベル堂

時軸を継ぐゴスロリ

全年齢

小説ID: cmnurpgqa001901s8t0vdb996

3章 / 全10

怜はその夜、旧資料室の端末群を使って学園の記録に潜った。表向きの授業進行、出欠、保健室利用、巡回記録。どれも平穏そのものに見えたが、重ねていくほど違和感は増していく。欠席者の数が少しずつ増えていた。名前は書かれているのに、映像がない。顔認証のログだけが、そこで何かを見たことを拒んでいた。 怜は指先で画面を送る。廊下の監視映像、屋上、体育館裏、図書棟の地下、温室の搬入口。場所はばらばらなのに、映像の端に必ず同じ揺らぎが混じっていた。水面に墨を落としたような輪郭の乱れ。人の姿に似ているが、人ではない。そこを見た者の記録だけが、妙に薄くなる。 「複数いるのか」 怜は低く呟いた。 背後で椅子がきしむ音がした。振り返ると綾音が資料棚にもたれている。相変わらず黒い衣装だが、今日は襟元のリボンが外されていた。 「一体だけだと思ってた?」 「脅かすな。あと、勝手に入るな」 「入れておいてから言いなさい」 怜は苛立ちを飲み込み、別の端末を立ち上げた。市内の配送遅延、医療機関の問い合わせ、夜間の警備配置、学生向け交通アプリの異常ログ。情報を束ねると、静かに点が繋がる。異形は学園の中だけで動いていない。都市のあちこちに、触れた痕跡を残していた。 朝には元気だったクラスメイトが昼に姿を消し、帰宅したはずの者が翌朝も来ない。表向きは体調不良、家庭の事情、進路相談。誰も騒がない。騒げないように、世界の方が滑らかに口を塞いでいる。 怜は端末を閉じ、机の引き出しから契約書類を引き出した。父の会社の名義を借りれば、表に出せる予算は作れる。調査用の倉庫、監視機材、通信中継器、医療班への寄付名目。必要なのは時間だ。金は時間を買える。少なくとも怜は、そう信じていた。 深夜、学園の外れにある旧講堂の地下へ足を運ぶと、そこには新しい機材が運び込まれていた。床に並ぶ端末、補強された扉、臨時の電源。数日前まで空き部屋だった空間が、すでに小さな本部の顔をしている。 「早いわね」 綾音が言った。 「急ぐ理由ができた」 「理由、じゃないでしょう」 怜は答えなかった。画面の一つに、消えた生徒の最後の映像が映る。振り向いたその顔の後ろで、あの揺らぎが一瞬だけ人の形を取った。 怜の胸の奥で、何かが冷たく沈む。救うために集めた情報と金が、誰かを閉じ込める檻に変わる気配を、もう感じ始めていた。

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