エラベノベル堂

古寺の異形へ

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2章 / 全10

翌朝、ひなたは早々に蔵の整理を始めた。叔父から渡された清掃道具を手に、埃っぽい空気の中で棚の整理を進めていく。 「まずは手前から……って、本当にどこも埃だらけ」 指先で棚を拭いながら、並ぶ呪物の異様な気配に身が竦む。錆びた刀、割れた鏡、目の描かれた人形。どれもがどこかで誰かの念を宿しているようで、背筋がざわついた。日差しが蔵の入り口から差し込み、舞い上がる埃がきらきらと光る。その光の先、棚の最奥にひなたは違和感を覚えた。 「あれ?」 他の呪物とは明らかに異なる木箱が、暗がりに鎮座していた。黒漆で塗られた重厚な箱で、表面には複雑な紋様が刻まれ、中央には真新しい呪符のような紙が貼られている。 「これだけ、管理が丁寧……?」 ひなたは梯子を登り、箱に近づいた。指先が箱の縁に触れた瞬間、びくりと手が震えた。 「うそ……温かい?」 箱自体が微かな熱を帯びている。まるで生き物の体熱のように、じんわりと指先に伝わってくる不思議な感覚。更に奇妙だったのは、箱の隙間から時折漏れ出す微弱な光だった。蛍の光よりも淡く、呼吸するように明滅している。 「開けてみたら……」 ひなたの指が、箱に貼られた札の端に掛かった。その時だった。 「ひなたちゃん!そっちは触らないで!」 叔父の張り詰めた声が響き、ひなたは悲鳴を上げそうになりながら手を引っ込めた。入り口に立つ叔父の表情から、いつもの柔和さが消えていた。 「叔父さん……」 「下りなさい。その箱には絶対に触れてはいけない」 ひなたは慌てて梯子を降りた。叔父が駆け寄り、箱を睨みつけるように見つめる。 「あの箱は……特別なんだ」 「特別、ですか?」 「中には古い巻物が納められている。だが、決して開けてはいけない」 「巻物、ですか……」 「ある禁忌を記したものだよ。読んだ者は皆、精神を蝕まれた」 叔父の声が低く沈む。 「開けてはいけない。絶対にだ」 ひなたは頷きながらも、胸の奥で小さな炎が灯ったのを感じていた。箱の温かさ、漏れ出す光。否定すればするほど、知りたいという欲求が膨らんでいく。だが彼女はまだ知らない。その好奇心が、彼女のすべてを変える扉を開くことになるとは。

2章 / 全10

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